THE HERMÈS EFFECT

エルメスのシルク王国へようこそ

October 2018

text benedict browne
photography kim lang

アトリエに設置された100 メートルに及ぶ印刷台。

 デザインと色の組み合わせを決めるのは、カラリストの仕事だ。染料を、植物ガムや地元の新鮮な湧き水と調合するのだ。正しい色のバランスを見つけるのは、厳密な計算と顔料の化学的性質を考えなければいけないため、きわめて難しい。ゴワノー氏の言う“勝利の方程式”が決定するまで、何十回も試行錯誤が行われる。

 ゴワノー氏によって色が承認された段階で、どこまでも続いているかのような長い印刷台にスクリーンを準備する。このとき、シルク生地が動かないよう、印刷台には接着剤を塗布する。続いて、スクリーンを1度に1枚ずつ使用し、職人のひとりひとりがそれぞれの印刷状態を念入りに点検する。輪郭から刷り始め、次に繊細なディテールを刷っていく。シルクの空白は、まばゆいばかりの色彩で満たされていく。

 100%のシルクに印刷する場合は、前後方向に2回刷りする。カシミヤとシルクの混紡の場合は、その2倍となる。インクの粘度によって印刷速度も変わる。さらに、スクリーンの洗浄時に使った水が完全に乾いていないと、この工程がすべて台なしになる場合もある。

 こうして印刷した長いシルクの生地を固定、洗浄、乾燥して柔らかく仕上げることで、エルメスが長らく称えられてきた極上の手触りが実現する。その後、生地は別の工房へ運ばれ、裁断と縁かがりが施される。この工程は手仕事で、寸法や織りに不備がないかもすべてひとつひとつ入念にチェックされる。エルメスの職人たちは、本当に丹精を込めた仕事をしているのだ。

スカーフは新しいタイになる!? エルメスのネクタイはそれぞれ、2枚のシルク製パネルで構成されており、2枚の芯地で補強されている。端がV字形になるように折り合わされ、端から端まで中央を、長さ1.7メートルの1本の糸で、手縫いされている。ネクタイの内側にはたるみ糸があり、形くずれしたら、たるみ糸を引いて元の形に直すことができる。ラベルは、同じ糸を使い、先端から8インチの位置に4点で縫い付けられる。

スクリーンに不備がないかを点検する職人。すべての工程を台無しにする可能性があるため、作業は慎重に行われる。

テーブルを囲む縫製職人たちが、ネクタイのネック部分を丁寧に折り畳む。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 22
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