Thursday, September 19th, 2019
赤峰幸生がたどり着いた
一生愛せる服
最も趣味のよい紳士として、世界でも認識されている赤峰幸生氏。
長らくクラシックを追求してきた氏が、今も愛し続ける服とは?
photography jun udagawa styling akihiro shikata text yuko fujita

Yukio Akamine
赤峰幸生
1944 年、東京都生まれ。90 年、自身の会社インコントロを設立。98年、イタリア生産による紳士服ブランド「Y. アカミネ」をスタート。2008 年、カスタムクロージングのブランド「アカミネロイヤルライン」を立ち上げる。現在も大手アパレル、百貨店、セレクトショップなどのコンサルティングを手がけている。
赤峰幸生の一生愛せる服 01
LIVERANO & LIVERANO
Mohair Suit
生地:ドーメルのトップグレイモヘア
ドレッシーにスーツを装うなら無地のトップグレイモヘア
シャイニーなトップグレイの粗挽き感が気に入っているという、2006年に仕立てたキッドモヘア100%のスーツ。シャツはアカミネロイヤルラインのもので、ギザ45コットンを使用したアルモの170双ポプリン。無地のトップグレイモヘアスーツに白無地ポプリンで1930年代スタイルのレギュラーカラーシャツという合わせは、氏の中で最もドレッシーな位置づけのスタイルだ。
残ったワードローブに真実が宿る
ブルー軸、グレイ~ブラウン軸と色別にわけられた赤峰氏のクローゼット。ほぼすべてがリヴェラーノ&リヴェラーノで仕立てたものだ。無地を中心にベーシックなストライプが多いが、杢糸使いの生地が目立つ。合わせるネクタイのコレクションも膨大で、落ち着いた色合いのものがほとんどだ。ちなみに靴は過剰に磨かないのも氏のこだわり。
赤峰幸生の一生愛せる服 02
LIVERANO & LIVERANO
Irish Linen Suit
生地:スペンス ブライソンのアイリッシュリネン
春先の晴れ日はマスタード色のアイリッシュリネン
四季を五感で感じ、それを装いに取り入れることを赤峰氏はずっと大切にしてきた。春先からはアイリッシュリネンスーツの登場回数が多くなる。こちらは2007年にスペンス ブライソンの生地で仕立てたものだ。色はマスタードがとてもしっくりくるという。シャツはレギュラーカラーの無地ポプリン。
赤峰幸生の一生愛せる服 03
LIVERANO & LIVERANO
Ulster Coats
生地:英国製キャメル/ムーアブルックのベロアフィニッシュヘリンボーン
コートはダブル、生地は質実剛健な英国製
コートはシングルよりもダブルブレステッドのアルスタータイプを好む。左は2002年に仕立てたキャメル100%、右は今はなき英ムーアブルックのベロアフィニッシュによるトップグレイのヘリンボーンで2007年に仕立てたもの。テーラード好きが血眼になって探している今や伝説の名ファブリックでもある。
赤峰幸生の一生愛せる服 04
LIVERANO & LIVERANO
Top Navy Suits
生地:ドーメルのツイストヤーン/フォックスブラザーズのトップネイビー
ブルーのスーツは英国生地のメランジ系
ともにリヴェラーノ&リヴェラーノ。左はドーメルの杢糸ネイビーのツイストヤーンで2005年に仕立てたもの。右はフォックスブラザーズのブラウンシェイドのヴィンテージ調メランジウールで2000年製。
赤峰幸生の一生愛せる服 05
LIVERANO & LIVERANO
Beige Cotton Suits
生地:英カーリントンのキャバルリーツイル
夏の定番はベージュのキャバルリーツイル
ともにリヴェラーノ、英カーリントンのキャバルリーツイル。同じ生地だが、2005年に仕立てた左よりも、97年に仕立てた右のほうが色褪せている。これもまた味だ。ベージュのコットンスーツは氏の夏の大定番。
赤峰幸生の一生愛せる服 06
CONNOLLY / Y.AKAMINE
Leather Blousons
生地:チェルヴォ/スエード
ドレスマインドで着るレザーブルゾン
左は約25年前に購入したコノリーのチェルヴォ(鹿革)。右は約20年前のY.アカミネのルネ・クレマンモデル。レザーブルゾンはドレスマインドで着る。ウールトラウザーズと合わせることもしばしば。
赤峰幸生の一生愛せる服 07
LIVERANO & LIVERANO
Gray Sharkskin Suit
生地:ハリソンズのグレイシャークスキン
グレイスーツの大定番はシャークスキン
アントニオの兄ルイージが生きていた94年に仕立てたリヴェラーノ。生地はハリソンズのヘビーウェイトのシャークスキンで、最もお気に入りのひとつ。
赤峰幸生の一生愛せる服 08
CHARVET / AKAMINE ROYAL LINE
Poplin Shirts
生地:ウィリアム・イェッツのポプリン/アルモの170 双ポプリン
上質なポプリンのレギュラーカラーシャツ
左はシャルベのパリ ヴァンドーム広場の本店でオーダー。今はなきウィリアム イェッツのポプリンは、氏の人生最上のシャツ生地。右はアカミネロイヤルライン。今日手に入る生地では最も好きだというアルモの170双ポプリン。襟は1930年代スタイルのレギュラーカラーが基本。
‘Akamine Royal Line’
赤峰幸生がたどり着いたスタイル“アカミネロイヤルライン”がオーダー出来る
赤峰氏がたどり着いたスタイル、オリジナルを含めた厳選の生地でスーツのオーダーが可能。氏自らがオフィスにて採寸・補正を入れてくれる。中心価格帯は約15 万円で、納期は約45日。
スーツ¥130,000 ~¥230,000(オーダー価格)Akamine Royal Line


上質な仕立て、上質な素材の服は
一生愛し続けられる
企画の視点をより掘り下げて自然との共生にまで広げるため、2014年、オフィスを自然に囲まれた神奈川県川崎市に移した赤峰氏。「めだか荘」と命名された社屋には、これまでの長い服飾との関わりの中で本当に必要なものとして残った服が、それでもぎっしり詰まっている。特にクローゼットの中に並んだ、リヴェラーノ&リヴェラーノの仕立てスーツの数は圧巻だ。
「自分に合ったテーラーを見つけること、すべてはそこから始まります。私の場合、今日着ているリヴェラーノ&リヴェラーノのアントニオがそうだったわけですが、彼が作る服が特別なものであるとは決して思っていません。むしろ、歩留まり感というのかな、胸のドレープがあって肩幅があり、アンダーステートメントでありながら美しさを感じさせるところに共感するのです。アントニオの選んだ生地がいいとかではありません。職人にとって最も大切なのは手であり、私も彼の手が好きなのです」
次に大切なことは、季節とオケージョンに合った服を着ることだという。7歳から絵を描きはじめ、春夏秋冬の自然の色を脳裏に焼きつけてきた中で、ここ15年ほどは独自の暦をもつ日本人であることを強く意識し、季節をデリケートに感じようと意識しているとのこと。英国やイタリアやフランスなど異文化の中で学ばせてもらったこと、それと日本人として学んできた感性をどう組み合わせるかに重きを置いているそうだ。
「その中で絶対的に思っていることは、日本人にはグレイに勝る色はないなということです。無彩色ですし、杢糸というメランジの糸でも揉み方によってグレイが美しくも青みがかったりも赤みがかったりもして、本当に奥が深いと思います。特にミディアムグレイが好きで、チャコールもライトグレイもあまり着ません。ネイビーも着ますが、ベタな紺色というよりは、杢糸使いのネイビーが好きですね。いわゆるダークネイビーよりもブルーに近いもののほうが、私の好みです。特に大好きなのは、ドーメルのトニックに代表されるようなモヘア、それとシャークスキンですね。夏場はベージュのコットンスーツ、マスタード色のアイリッシュリネンスーツ、冬はミディアムグレイフランネルのスーツも欠かせない存在です」
そして、合わせるシャツも大変気になるところだ。ここにも流行は関係なく、到達点があった。
「かつてウィリアム・イェッツというメーカーがあり、ギザ45を使ったロイヤルポプリンがあったんですけど、コリコリしたタッチが今なお私の脳裏から離れないほど、素晴らしいものでした。今日、それに最も近いのがアルモ社の170双ポプリンです。襟型に関していえば、1920年代後半から30年代のスタイルが好きで、レギュラーカラーで襟はかなりソフトめ、カラーキーパーを抜いたスタイルにたどり着きました」
パリのシャルベでオーダーする際も、アカミネロイヤルラインで作るシャツも、必ずこの襟にするという。気に入ったシャツは袖口がボロボロになっても気にせずに着続けるという。
「長年愛用して傷んだシャツの袖口は、自分にとってはむしろ男の勲章でもあります。靴もそうですけど、ピカピカの新品を着るほうが気恥ずかしいです」
THE RAKE JAPAN EDITION issue 22