THE HERMÈS EFFECT
エルメスのシルク王国へようこそ
October 2018
過去の時代や場所を鮮やかに想起させる力がある。それはエルメスが、2世紀近くにわたって“洗練”の代名詞であり続けてきた理由だ。
photography kim lang
Christophe Goineau / クリストフ・ゴワノーメンズシルクのクリエイティブ・ディレクター、クリストフ・ゴワノー氏(パリにあるエルメスのオフィスにて)。メンズのアーティスティック・ディレクター、ヴェロニク・ニシャニアンと協調しつつ、メンズシルク部門のすべてを統括する。美しいネクタイやスカーフは、すべてゴワノー氏のインスピレーションより生まれる。
シルク王国の支配者 古代から、シルクは欧州の上流階級と密接に結びついて来た。ヨーロッパにおけるシルクの本場は、昔からフランスのリヨンだ。15世紀に、ルイ11世がローヌ川をはじめ、地中海沿岸、イタリアなどとの交易路を拓いたのが、そのはじまりである。そして、シルクがひとつの国であったとしたら、王国の支配者たる名家は、間違いなくエルメスだろう。
エルメスは1937年以来、シルク事業の本拠地をリヨンに置いてきたが、養蚕のパートナーは、ブラジル南部のパラナ州にある。それはエコに特化した農業協同組合で、最高品質のシルクを生産している。シルクを生み出すカイコガのメスは約300~500個の卵を産み、孵化した微小な幼虫は、自らの体重の5万倍もの桑の葉を食べる。その後、幼虫は繭状となり、繭の内部で絹糸を分泌する。1個の繭をほぐしてゆくと、実に1,500メートルに及ぶ絹糸が得られるという。
エルメスは、なぜ高い? エルメス初のシルクデザインは“オムニバスと白い貴婦人のゲーム”と呼ばれるものだった。90センチ四方のこのカレ(正方形のスカーフ)は、ボードゲームに興じる女性たちを描いており、周囲に馬車を配することで、馬具工房としてスタートしたエルメスのルーツを表現していた。制作に用いられた方法は、伝統的な木版画だった。
現在のエルメスは、精巧なテクノロジーと熟練した職人の技を用いてシルクアイテムを製造している。
「エルメスはすべての工程を自社で管理しています。その理由はひとつです。常にベスト・クオリティの仕事をしたいからなのです」
大きなパネルを支え、印刷工程の準備をする職人。
デザイナーが起こしたネクタイのデザインを、ひとつひとつ丁寧にトレースする製版工程の職人。