THE GRITTI PALACE : RESTORER OF THE SOUL

ヴェネツィアが誇る名ホテル
楽しき、グリッティ パレス

May 2019

text wei koh
photography rian davidson
special thanks to The Gritti Palace

実際に定宿としていたアーネスト・ヘミングウェイをモチーフとしたザ・ヘミングウェイ・プレジデンシャル・スイート。

 ロレンツォーニ氏が行った変更は巧妙で、見てもわからないことが多い。

「昔からグリッティは、ヴェネツィアの職人たちが作品を披露する場でした。特に有名なものが、シルクのダマスク織です。美しい紋様を描くこの素材を使い、家具や時には壁面まで布張りにします。ですが修復当時、既存のダマスク織は消防法に適合しなくなっていました。そのため、ルベリの職人たちと協力し、美しさを損なうことなく耐炎性を持つ新しい織物を製作しました。修復前に使い残していた織物は、スリッパに加工し、記念品としてお得意様にお送りしました。お客様は、社交クラブの会員証としてそのスリッパを持参し、バーへ履いていくことを好まれます」

 修復時、ロレンツォーニ氏はホテルを休業して、作業を迅速化することにした。

「私たちはすべての絵画や家具を保管しました。温度と湿度を一定に保った巨大容器に、あらゆるものを入れました。その後、2012年9月にすべての品を取り出し、インテリアデザイナーと協力してもとの場所へ戻しました。オープン予定日は2013年2月1日でした。私が達成した最高の成果は、もとのスタッフがほぼ全員残ったことだと思います。グリッティが特別である理由をお客様にお尋ねすると、皆『スタッフです』とおっしゃる。ここで働くチームは『世界最高でありたい』と思っています。お客様が当ホテルに到着されると、たとえ初めての方であっても、スタッフはお名前を呼んでご挨拶します」

グリッティは会員制クラブ「ここは自らの家のように感じられるべき場所です。一度ここへお越しになれば、コンシェルジュや給仕長、バーテンダーは友人であるかのように接するでしょう。二、三度お越しになれば、もうわれわれの家族です。これは小さな規模がもたらす強みです」

グリッティ パレスは昔からは、多くの文人や芸術家に愛された。ここはザ・サマセット・モーム・ロイヤルスイート。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 28
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