THE GRAPE AND THE GOOD

300年のラグジュアリー:レミーマルタン

August 2019

text tom chamberlin

長い年月にわたり熟成を見守られているオー・ド・ヴィー(原酒)。

 そこには特に興味を引かれる点がありました。製品の“クオリティ”ということです。クオリティが意味するものは、専門的技術の伝承、歴史だけでなく、顧客との精神的な結び付きも含まれます。この点を追求することがとても面白いから、ラグジュアリーに魅力を感じ、この世界で長い
ことやってこられたのだと思います。

 ブランディングやマーケットリサーチ、高級商材にはずっと興味を持っていましたが、最初に足を踏み入れたのは、偶然にもファッション業界でした。最初にオファーをもらったのがLVMHグループのファッション部門だったからです。

 ファッションは魅力的な世界でした。子供服のボンポワンでも、ジェイエムウエストンでも、ディオールでも、ルイ・ヴィトンでも、すべてはデザイナーのインスピレーションとスケッチから始まります。しかしそれだけではダメで、マーケティングやPRなど、他のすべてと協業しなければなりません。最終的に製品を通じて表現しなければならないのは、そのブランドの世界観なのです。ここがファッション・ビジネスの面白いところでした。

 デザイナーとの仕事は楽しい面と難しい面がありますが、やはり楽しいほうが勝ります。彼らと街を歩くと、後ろにも目がついているかと思うほど、私たちとは違う見方をしていて、そこが面白いし刺激を受けます。

 一方、消費者の動向にも、常に驚かされます。マーケットは全世界ですが、国ごとに需要は異なります。新製品を発売する度に、リスクを覚悟しなければなりません。発売してみて、意外な結果に驚かされることが多いのです。できれば、ポジティブな驚きだとよいのですが、そればかりではないことはご想像の通りです。

 この業界では、長く働くほど、自分がブランドのDNAを理解しているという自信がついてきます。かといって、顧客の考え方が自分の予測通りになるわけではありません。そこが難しく、また楽しいところです。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 17
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