THE ART OF MAKING IT

アメリカを富める国とした一族たち

June 2023

text nick foulkes

ウィリアム・キッサム・ヴァンダービルト(フロリダにて、1938年)。

旧い血統と新しい富の交換 ニューヨーク五番街は、かつては地味な茶色の街だったが、彼ら彼女らのおかげで、豪華な邸宅が立ち並び、さまざまな建築様式が乱立するようになった。ウィリアム・ヘンリー・ヴァンダービルト(1821~1885年)は、フィフス・アヴェニューとウエスト51ストリートの角にある大邸宅をはじめ、現代でいうトランプ・タワーのような建物を6棟も建設した。古代ローマ風、ルネッサンス期のフィレンツェ風、異国情緒溢れる日本風など、スタイルを問わず、めちゃくちゃに建てまくった。

 他のヴァンダービルト家の人々も建築道楽だった。ウィリアム・キッサム・ヴァンダービルト(1849~1920年)は、中世イングランド風のダイニングホールを好み、コーネリアス・ヴァンダービルト2世(1843~1899年)は、アルハンブラ宮殿風の喫煙室を拵えた。

 この種の建物には、旧世界の建築様式を踏まえ、それをもって新世界の優位さを表現するという意味があったのだ。

 こういった金満趣味が成熟するにつれて、最初の世代の傲慢さは薄れ、徐々にヨーロッパ風の洗練されたテイストを持つようになり、旧世界のエリートのような余暇を楽しむようになった。

 ウィリアム・ホイットニーの馬は、1899年のプリンス・オブ・ウェールズの馬、1900年のウェストミンスター公の馬に続いて、1901年にダービーで優勝した。

 斜陽の旧世界と隆盛する新世界は、しばしば金と血統を交換し合うようになった。最も有名なのは、ウィリアム・キッサム・ヴァンダービルトの娘コンスエロが英国マールバラ公爵夫人となったことである。

 また、アメリカの大金持ちの子孫は、それ自体が旧世界の貴族になることもあった。先に述べた油まみれの指のドイツ人毛皮商人のひ孫は英国に帰化し、爵位を与えられ、初代アスター子爵となった。しかし、1929年に起こった世界恐慌と、1939年からの第二次世界大戦が世界を大きく変えた。このような支配的な大物たちは、過ぎ去った時代の遺物となって
しまったのである。

 だが、その威光は失われていない。1962年に出版された著作で、ジョセフソンはこう書いている。“本書で取り上げた時代に成立した家系の中には、3世、4世まで存続し、かつてないほど繁栄しているものが驚くほど多い。今世紀に起こったいくつもの大きな戦争は、ロックフェラー、デュポン、メロン、フォード、ホイットニーなどの遺産に何の影響も与えなかった。このような一族の財産は、数百万ドルどころではなく、数十億ドルという規模かもしれない。民主党の支持者も、こうした一族の財産がアメリカの風景として定着していることに、どうやら納得したようだ”“紳士になるには4代が必要だ”というのは社会評論家ワード・マカリスターの有名な言葉であるが、ロックフェラー一族の特権的で優雅な暮らしぶりを見ると、スタンダード・オイルを創業した一族は、たった3代でそれを達成したように見えてしまうのである。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 50
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