June 2023

THE ART OF MAKING IT

アメリカを富める国とした一族たち

text nick foulkes

ジョン・ジェイコブ・アスターと彼の2番目の妻マドレーヌ(1912年)。

アスター家とヴァンダービルト家 旧世界の貴族は封建制度に支えられていたが、1800年代の新世界の貴族は銀行と工業から生まれてきた。新世界の最初の貴族は、ヨーロッパからの移民が殺到した商都ニューヨークで誕生した。

 その中に、ドイツ・ヴァルドルフ出身の10代になったばかりの精肉店の息子がいた。ヨハネス・ジェイコブ・アスター(1763~1848年)である。彼はロンドンを経由して、ドイツ語訛りの初歩的な英語を身につけ、ニューヨークへ到着した。21歳になった彼は、毛皮、そして不動産で財を成した。

 ヨハネスという名前はアメリカ風のジョンに変えたが、一流のアクセントやマナーは身につかなかった。あるとき、口から噛みタバコを取り出し、その塊で窓に絵を描いて、英国人の訪問客を驚かせた。またあるときは、ディナーの際に油まみれの指をホストの娘の服で拭ったこともあった。

 その後、19世紀のニューヨークの大富豪の中で、さらに下品な人物が、スタテン島に生まれたコーネリアス・ヴァンダービルト(1794~1877年)という蒸気船の船長であった。1艘のボートから身を起こし、蒸気船で事業を拡大した。

 1853年の彼のヨーロッパ・ツアーは、当時の最も大きなイベントで、その費用は50万ドルに上ったと推定される。彼の蒸気船ノーススター号は、伝記作家が“当時、洋上で最も大きな物体”と表現しているが、このファミリーの休暇のために特別に建造されたものだった。ルイ15世風の装飾が施され、部屋には花崗岩や大理石がふんだんに使われていたという。

 彼は、卑しい言葉遣い、タバコ臭のする痰の吐き散らし、召使の女の子へのセクハラで有名だった。その酷さは、ドナルド・トランプがジェームズ・ボンドのように思えるほどであった。

 伝記作家のジャスティン・カプランは次のように述べている。

「アスター家は、自分たちのほうが一世代古くから金持ちだったという理由で、同じく鼻持ちならないヴァンダービルト家を見下していた」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 50
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