THE ART OF MAKING IT

アメリカを富める国とした一族たち

June 2023

text nick foulkes

グロリア・ヴァンダービルトと夫パット・ディシコ(1940年代)。

金持ちは幸福か、不幸か? 私はドラマシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011~2019年)の視聴者ではないが、私が知る限り、この番組は1870年から1920年までのアメリカ合衆国と、少なからず類似しているようだ。地球上で最も強力な国家の富を支配するために、同盟が結ばれ、戦いが繰り広げられるところがだ。

 中には、世界を征服しようとした者もいた。アメリカン・タバコ・カンパニーの創始者ジェームズ・ブキャナン・デューク(1856~1925年)は、ニコチンの市場を独占しようとした。しかし、彼の野望は阻まれた。英国系のタバコ会社、英国と旧植民地を扱うインペリアル・タバコと、その他の世界に販売するブリティッシュ・アメリカン・タバコが設立されたからだ。

 世界のタバコ市場を形成すると同時に、彼はデューク大学に寄付をし、ジェットセッター時代の悲劇のヒロイン、ドリス・デューク(1912~1993年)を生んだ。彼女は世紀のプレイボーイで知られたドミニカ共和国出身の外交官ポルフィリオ・ルビローザの3番目の妻となった。2番目の妻である女優のダニエル・ダリューに100万ドルを支払い、協議離婚に同意させたと伝えられている。

 結婚中、彼女はルビローザに数百万ドルの贈り物をし、その中にはポニーの馬小屋、スポーツカー、B-25爆撃機などが含まれていた。そして離婚調停ではパリの17世紀の家屋を奪われた。ドリスの人生は、お金ですべてが買えるわけではないことを示す、典型的な例になった。

 ウールワースの相続人であるバーバラ・ハットン(1912 ~ 1979年)もそうだった(彼女とドリス・デュークは、どちらもポルフィリオ・ルビローサを夫とした)。英国の劇作家・俳優のノエル・カワードは彼女を評して、“プア・リトル・リッチ・ガール(かわいそうな金持ちの小さな女の子)”と呼び、同名の歌を作った。

 ありあまる金が、彼女の孤独を招いた。パーティに出席すると、「お金があると幸せも買えるんでしょ」と女性たちに皮肉られた。会場から出て待たせていたリムジンに乗り込もうとすると、群衆から腐ったトマトや卵を投げつけられた。硫酸をかけられたこともあった。

 不幸な女性はまだまだいる。グロリア・ヴァンダービルト(1924~2019年、CNNのアンカーマン、アンダーソン・クーパーの母)は幼少の頃、叔母のガートルード・ヴァンダービルト・ホイットニーと、放蕩三昧のバイセクシュアルな母、グロリア・モーガン・ヴァンダービルトの間でスキャンダラスな親権争いに巻き込まれた。

 後者はかつてウィンザー公爵の愛人だったエルマ・ファーネスの双子の妹である。すべては金を手に入れ、社会的な洗練を追求するためだった。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 50
1 2 3 4 5 6 7

Contents