THE ART OF MAKING IT

アメリカを富める国とした一族たち

June 2023

text nick foulkes

ロードアイランドのヴァンダービルド家のレジデンス(1904年)。

“ブラックフライデー”の始まり 彼らの野心はとどまるところを知らなかった。ジェームズ・フィスク(1835~1872年)とジェイ・グールド(1836~1892年)は、横領資金と腐敗した政府高官を使って金市場を支配しようとした。1869年、彼らは価格を上げるために金を大量に買い、それを売って利益を得ようとした。金相場は暴落し、ウォール街は大混乱に陥り、多くの金融機関が廃業に追い込まれた。これが今ではバーゲンセールの代名詞となった“ブラックフライデー”の語源である。

 ジョン・シャーマン上院議員(1823~1900年)は、これらの人々が行き過ぎた権力を行使していると非難した。

「これはもはや王族の特権であり、われわれの民主主義と矛盾している。州当局と国家で取り締まるべきである。もし、何かが間違っているとすれば、これは明らかに間違っている。われわれの生活に必要な生産、輸送、販売に王様はいらないはずだ」

 しかし、シャーマンは例外であり、全体として政治家は買収されたり、排斥されたりするものであった。

 チャールズ1世が王の神聖な権利を信じたように、ジョン・D・ロックフェラーも金の神権を信じていた。

「金儲けの力は、神からの授かりものだと信じている。そして、その金を自分の良心に従って、同胞のために使うことが私の義務である」

 ジョセフソンが指摘するように、彼は「自分の経営するコロラド・フューエル・アンド・アイアン・カンパニーの労働者が撃ち殺されたり、生きたまま焼かれたりしているときに、中国での布教活動に資金を提供していた」のである。しかし、不運なチャールズ1世とは違い、ジョン・D・ロックフェラーは処刑されなかったばかりか、世界初の億万長者になった。ロックフェラーはヨーロッパの王室よりも裕福になったのだ。

 昔の君主のように、彼らは自分の名を冠した町をつくり、そこに臣下、つまり労働者を住まわせ、秩序を維持するために軍隊まで動かすことができた。

 ラドローの大虐殺は、決して独立した事件ではなかった。軍隊、武装民兵、傭兵は、この時代のビジネスの慣習として、労働争議に対処していたのである。

 最も有名な騒動のひとつは、1892年にカーネギーの所有するペンシルベニア州ホームステッド工場で起きたものである。ストライキによって占拠された工場を奪還するため、会社は300人のウィンチェスター銃で武装した民兵を雇ったが、これに失敗し、双方合わせて70人以上の死傷者が出た。会社は8000人の民兵の出動を州知事に要請し、軍隊の出動によって労働組合は壊滅した。

 実業家にとって、激しいストライキに自分の名が付けられることは、通過儀礼のようなものとなった。最も悪名高いのは、1894年のプルマン・ストライキである。寝台車の発明者ジョージ・プルマン(1831~1897年)は、アメリカで使用されている鉄道車両の多くを製造・運営していたが、景気後退により需要が減り、賃金カットを行った。

 その結果、ストライキ、暴動、破壊工作が起こり、全国の鉄道網がマヒしてしまったのである。グロバー・クリーブランド大統領は、国を再び動かすために軍隊を派遣せざるを得なくなった。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 50
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