THE ART OF MAKING IT
アメリカを富める国とした一族たち
June 2023
アンドリュー・カーネギー(1910年)。自身のオフィスにて。
きっかけは南北戦争 1860年代になると南北戦争(1861~1865年)をきっかけに、新しい経済的エリートが誕生することになった。リンカーンが初めて志願兵を募集したとき、産業界の新しい貴族となる者たちは、ほとんどが青年か壮年期だった。
ジェイ・グールド、ジェームズ・フィスク、J・P・モルガン、アンドリュー・カーネギー、ジェームズ・ヒル、ジョン・D・ロックフェラーはみな20代前半で、コリス・ハンチントンとリーランド・スタンフォードは30過ぎ、ジェイ・クックでさえまだ40歳にもなっていなかった。
その後数年間で、このメンバー全員が、最初の“幸運”を手にすることになる。戦争が終わると、彼らは資本家となり、さらなる富を築いていった。南北戦争は彼らのためにあったようなものだった。
1865年に南北戦争が終結し、1869年には初の大陸横断鉄道が東海岸と西海岸を結び、工業製品の巨大市場が形成された。“金メッキ時代”(マーク・トウェインの新時代を風刺した小説より命名された)が始まったのだ。世紀末の数十年間は、貿易や産業のあらゆる面を支配する、いわゆる“トラスト”を握る少数の人々に、国の富が集中する時代であった。ナショナル・ビスケット・トラストから、ビジネス史上最も有名な企業であるスタンダード・オイルに至るまでである。ヨーロッパの貴族が先祖代々の領地で生殺与奪を握っていたように、この人たちも絶対的な支配者として君臨したのだ。
ヴァンダービルトは、南北戦争で輸送手段が船から鉄道に移行したことから、鉄道産業にも力を入れ、ついには“鉄道王”と呼ばれるまでになった。
1871年にオープンしたニューヨークのグランドセントラル駅舎は、北米最大の屋根付き空間で、1万5千人の乗客と約100本の列車を収容することができた。彼は赤と黄色のカラーが目印の専用車両で、国中を駆け巡った。
一方、アンドリュー・カーネギー(1835~1919年)も莫大な富を築いていた。自分の名を冠するならどんなものにも金を出すという尊大なスコットランド人で、鉄鋼王であった。カーネギーが設立したカーネギースチールの生産量は、最盛期には大英帝国全体の鉄鋼生産量を上回っていた。
パイナップルのような大きな鼻と葉巻がトレードマークだったJ・P・モルガン(1837~1913年)は、銀行界のナポレオンであった。彼のビジネススタイルを知る手がかりは、彼のスーパーヨットの名前にある。米西戦争のとき、アメリカ海軍はコルセアⅠ、コルセアⅡという戦艦を運用していた。そこで彼は自分の船にコルセアⅢという名前を付けた。
モルガンは株式市場のパニックや経済破綻をその力で食い止め、金融市場に秩序をもたらした。『イラストレイテッド・ヒストリー・オブ・ニューヨーク』の著者によれば、「アメリカの歴史上、これ以上の権力を持った者はいない」。
一方、ロックフェラーは、すべてを動かすもの、すなわち石油を支配していた。