SKÅL OF THOUGHT
俳優:マッツ・ミケルセン 美しき“至宝”に祝杯を
March 2022
photography charlie gray
fashion direction grace gilfeather
ガウン Gownsmith at The Rake Tシャツ Private White V.C. トラウザーズ Ralph Lauren Purple Label
「これは“手に負えないもの”への賛歌。編集段階でトマスははっきりわかったんだと思う。進行上不可欠ではないけど、残しておくべきシーンがたくさんあったから。男たちの試みと同じように、作品そのものも“手に負えないもの”でなくてはならなかった。振り返ると、この災難の中で真の目的になったのは、作品を人生への賛歌にすることだったと思う」
デンマークからハリウッドへ 10年ほど前、アメリカの映画評論家A・O・スコットは、ミケルセンについて「ハリウッドの映画では信頼すべき個性派俳優のひとりだが、デンマークでの彼はひと味違う。スターであり、自明の存在であり、デンマーク映画再興の顔である」と評した。後者の評に異を唱えるのは難しいだろう。
本格的なスクリーンデビューを果たしたとき、彼は既に30歳。ニコラス・ウィンディング・レフン監督の『プッシャー』(1996年)で、ヘロインの売人を演じた。下っ端のギャング役を演じたのは、アナス・トマス・イェンセン監督の『ブレイカウェイ』(2000年)。2006年にはスサンネ・ビア監督の『アフター・ウェディング』(2006年)で、インドの孤児院経営者を演じた。これら3作品はデンマーク映画のマイルストーンとなっているが、それはミケルセンの圧倒的な存在感によるところが大きい。やがて彼は“北欧の至宝”の異名をとる実力派俳優として、その地位を確立した。
だが、2006年に刻まれた別のマイルストーンも忘れてはならない。ダニエル・クレイグが初めてジェームズ・ボンドを演じた『007 カジノ・ロワイヤル』で、ミケルセンは悪役ル・シッフルを演じてその名を世界に知らしめ、クレイグやマーティン・キャンベル監督とともに007シリーズを新たな領域へと導いた。
「新しいスタイルやリアルな表現を追求した結果、いろんなことが進展したよ。でももちろん従来の世界観との橋渡しもしなくちゃいけなかった。だからボンドはタキシードを着てアストンマーティンに乗らないといけなかったし、悪役には何かしらの身体的特徴が必要だった」
『007 カジノ・ロワイヤル』(2006年)。