March 2021

SHOULDER TO SHOULDER

従兄弟で生むエレガンス
変わり行く老舗“チフォネリ”

チフォネリが140周年を迎えるにあたり、私たちはこの世界屈指のテーラーリングハウスと、一族の第4世代にあたる従兄弟たちに賛辞を送る。
彼らのビジョンは、ハウスの豊かな未来を予感させる。
text nick scott

Lorenzo and Massimo Cifonelli
ロレンツォ・チフォネリ(左)とマッシモ・チフォネリ(右)
1880年にジュゼッペ・チフォネリによってローマにて創業された名門テーラー、チフォネリの4代目。ふたりは従兄弟同士である。1990年代にファミリー・ビジネスに加わり、2003年に3代目アドリアーノからビジネスを引き継いだ。現在はパリとロンドンに直営店を持ち、コロナ禍以前は、カッターとして日本にも頻繁にトランクショーに訪れていた。

 優れた装いをするという行動が、酸素と同じくらい不可欠なタイプの夜会において、私が多くの知人に聞いてきたことがある。それは、世界最高のビスポークアトリエの名をひとつだけ挙げることだ。するとほぼ毎回、4音節で構成された同じ名前が返ってくる。相手はパッと瞳を輝かせ、畏敬の念を込めてその名を呼ぶ。すると、声の届く距離にいる人々は一様にうんうんと頷くのだ。

 ジュゼッペ・チフォネリが1880年にローマで創始したアトリエは、今ではパリのマルブフ通りに建つオスマン式の建物に入り、階段と大きな木製ドアを抜けたところにある(1936年以降はここがハウスの本拠地だ)。世界のテーラーリング業界において、このアトリエがメッカやシナイ山やマハーボディ寺院のような存在であるのはなぜなのか?

 チフォネリでは、初めて訪れる者も、今なお事業の舵取りをする創業者一族に迎えられる。これは世界の一流アトリエの中でも希少なことだ。そのメンバーとは、チフォネリ家の第4世代であり、従兄弟同士のロレンツォ氏とマッシモ氏である。ポール・ムーリス、リノ・ヴァンチュラ、マルチェロ・マストロヤンニ、ケーリー・グラント、カール・ラガーフェルド、そしてフランソワ・ミッテラン(自身のチフォネリコレクションがドゥルオーでオークションに出品されたばかり)を顧客に持ったハウスにとって、それは当たり前のやり方なのだ。ファミリー所有の独立事業であり続けることはチフォネリにロマンチックなオーラをもたらしている。しかしそれは高い知性と卓越した技術、不断の革新がなければ、成し得なかったことだろう。

チフォネリの服の特徴とは? チフォネリの手法は、イタリアのしなやかな着心地、サヴィル・ロウのきっちりとした構造(ジュゼッペの息子であるアルトゥーロはロンドンで仕事を学んだ)、フランス式クチュールの繊細なディテールを兼ね備えている。つまり、テーラーリング界の世界3大名所から選りすぐった要素で構成されているわけだ。

工房にいるアルトゥーロ・チフォネリ。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 38
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