February 2018

REEL BRITANNIA

ハリウッドを占拠した英国人俳優

text james medd

『緋色の爪』のナイジェル・ブルース(左)とベイジル・ラスボーン(右)(1944年)

消滅した英領ハリウッド 1940年代から50年代の演劇界では、20年代の人々が好んだイギリス英語のアクセントではなく、中部大西洋岸地域の発音のアクセントが主流となっていった。徐々に映画も世界的な産業となり、スターたちはロサンゼルスと同じくらいローマやベルリンを飛び回るようになった。1960年にはついに、「ハリウッドは完全に変わってしまった。一代ビジネスを築いた古い仲間もいなくなってしまった」と言い残し、ニーヴンまでもが姿を消した。さらに20年後には、イギリス支配はまるで存在しなかったかのようになっていた。

 ハリウッド・クリケット・クラブは、ロックスターやヒルズに住まいを構えたイギリス人俳優たちが継ぎ、それでも自国よりハリウッドを好んだ。その中のひとりがマイケル・ケインである。一方、国籍に関係なく仕事が順調な俳優たちは、スーツケースひとつで転々と生活し、さらに成功を収めた者は世界中にある家を行き来した。

 このように、エディ・レッドメインやイドリス・エルバなど今日のイギリス人スターたちは、昔のような入植者としてのイギリス人ではなく、アメリカ英語のアクセントを習得した世界人となった。つまり、アメリカ人として通用している、ということでもある。

 植民地化していた当時は、アメリカのイギリスに対する愛情が完全かつ無償なものであったため、イギリス英語のアクセントで話していても全く問題はなく、イギリス人であるということを、そのまま受け入れてくれていた。そもそも、アメリカ人に見せかける必要などなかったのだ。だから彼らは、最終的には他の植民地のように、独立を再び主張される運命が待ち受けていたにもかかわらず、母国をハリウッドに持ち込んだのだろう。しかしハリウッドが他の植民地と違うのは、住民たちが自ら統治されることを望んでいた、ということ。そして一部の住民が多少難色を示す以上に厳しい扱いは受けなかったということだ。

 今考えると異常かつ非現実的な出来事のようかもしれないが、馬鹿げたほどに光り輝くハリウッド英国支配の日々にイギリス人なら、少なくとも祖国愛を感じるのではないだろうか。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 09
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