February 2018

REEL BRITANNIA

ハリウッドを占拠した英国人俳優

text james medd

マレーネ・ディートリッヒとセーリングを楽しむロナルド・コールマン(1937年)

“英国”に見せかけた儀式 クリケット参加者の中には、ケーリー・グラントやレックス・ハリソン、ナイジェル・ブルースなどの著名なイギリス人俳優たちもいた。他にも、名ばかりのオーストラリア人やアメリカ人がいたが、80代まで見事なプレーをしたスミスは、イギリス人であれば参加することが愛国者としての義務だという立場を崩さなかった。

 1933年にローレンス・オリヴィエが初めてハリウッドに降り立った際、シャトー・マーモントの彼の部屋に置かれたメモには、「明朝の9時にクリケットを行うので、そこで会おう」と記されていた。エリザベス・テイラーやジョーン・フォンテインなどの著名な主演女優たちも、観戦のために足を運ぶほどだった。しかし、これらのしきたりの割に、英国チームと言うにはかなりかけ離れたものであった。クリケッターという雑誌で、「厳格なイギリス人でありながら、派手でけばけばしいアメリカ人だ。田舎の礼儀正しさと、アメリカのずうずうしさが豊かに混ざり合った、金持ちと有名人が人目を忍んで訪れる会合場所である」と表現されたほどである。

 ボリス・カーロフは、クラブ記章入りのタイヤカバーを付けたアメリカ車を乗り回したが、外交官という高い地位にあった兄弟たちは、さぞかし難色を示したことだろう。色々な意味でハリウッドのイギリス人を象徴するものであり、パブリックスクール出身者向けの毎年恒例の夕食会(こちらもまたオーブリー・スミス主催)、大みそかにハリウッドのカフェでラジオから聴こえてくるビッグベンの鐘の音を聞く集まりなどと同様に、見せかけの儀式のひとつに過ぎなかったのだ。

 彼らは、慣習やイギリス英語のアクセントを維持しようとしていたが、周りからの影響によって、自覚するよりもずっと新しい土地に適応していたのである。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 09
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