Miller’s tale

ロバート・ミラー:
DFS創業者、その野心

March 2017

text james medd
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マリー・シャンタルとピア、フランスのカップフェラにて(1991 年)

He has always been a fierce
competitor,and there is
no argument that he has
succeeded in all has undertaken.
彼は昔から負けず嫌いで会ったし、
これまでの勝負で常に成功してきたのは言うまでもない。

 DFSは太平洋全域に事業を拡大し、やがて250億ドル市場に成長した免税ビジネス業界のトップに君臨するようになった。その事業規模は目覚ましく、サイパンでは空港ビルの建設費を賄うほどであった。少数株主が2社ほどあるものの、ミラーとフィーニーは年間10億ドルにのぼる利益を、それぞれ40パーセントずつ確保した。

 これほど儲かると、その金をどう使うのかという問題が生じる。これを解決したのは、ミラーの妻マリア・クララ・ペサンタスだった。エクアドルで建設作業員の娘として生まれた彼女は、美しく、夫にひけを取らない野心を持ち合わせていた。夫妻はマリアがインカ皇帝の直系子孫だと主張し、あるパーティでは彼女は、プリンセスのような装いで熱気球に乗って登場した。ミラー自身も、スコットランド王ウィリアム1世をはじめ、ヨーロッパ各国の王族まで祖先をたどり始めた。それが、次に起こることの前触れだった。

娘たちのゴージャスな結婚 1965年に結婚したミラー夫妻はニューヨーク、ロンドン、香港で3人の娘をもうけた。1966年に誕生した長女のピア、2年後に生まれた次女のマリー・シャンタル、1972年に生まれた末娘のアレクサンドラである。娘たちは、億万長者の子女が集まるスイスのル・ロゼをはじめ、一流ボーディングスクールを経て、アメリカ有数の大学でアート史を学び、誰もがうらやむような夫と結婚した。

 最初に結婚したピアのお相手はクリストファー・ゲッティ。石油王ジャン・ポール・ゲッティの孫だ。ゲッティ家は、ロックフェラー家やアスター家、ヴァンダービルト家に並ぶアメリカの名門一族であり、もちろん莫大な財力の後ろ盾もある。

 後のふたりはヨーロッパに目を向けた。末娘のアレクサンドラは1995年に、イーゴ・フォン・ファステンバーグ公爵の息子、アレキサンダーと結婚した。ファステンバーグ家は14世紀から続く貴族で、18世紀よりドイツ皇族の流れをくむ家系である。この一族は昔から新興成金と縁が深く、新世界にも進出していた。

 なかでも有名なのはアレキサンダーの母、ダイアンである。ブリュッセルのユダヤ系小売店主の娘として生まれた彼女は、ファッションデザイナーとしてよく知られている。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 14
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