LIVE AND LET LIVE

アーカイブが語る007

August 2020

text nick foulkes photography kim lang
special thanks to Eon Productions and the London Film Museum

黄金銃を手に取り観察する筆者。

 これだけの名シーンにもかかわらず、現在残っているのはゲーム用の50ポンド角チップだけだという。黄色の樹脂でできたこの工芸品(と呼ぶのがふさわしいだろう)は、経年変化で少し歪んでいるが、60年前の品であることを考えれば、残っているだけでも驚くべきことだ。

 メグ・シモンズがいなければ、名シーンに登場した貴重な遺物も失われていただろう。彼女はボンド映画の製作会社であるイーオン・プロダクションズのアーカイブディレクター。つまり、半世紀以上にわたって007とその世界を支えてきた大小さまざまなディテールを、21世紀に引き継いで守護する人物である。

「これは、『007/ドクター・ノオ』に登場するカジノ、アンバサダー・クラブで使用されていた50ポンド角チップです」

 かつて存在した優雅な世界を知るそのチップを、手袋をはめた手でそっと持ちながら、彼女は敬意を込めてこう話す。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 35
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