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アーカイブが語る007

August 2020

text nick foulkes photography kim lang
special thanks to Eon Productions and the London Film Museum

『007/ドクター・ノオ』で使用されたゲーム用の角チップ。

 フレミングは、チェーホフやコンラッドほど心理描写に長けていたわけではないかもしれない。だが彼は、ブランド品、クルマ、骨董品、化粧品、タバコ、飲食物といったものすべてに関して独自の視点と専門的知識を持っていた。そしていうまでもなく、メンズファッションにも細部まで精通していた。彼の手にかかると、こうしたアイテムひとつひとつが文学的な仕かけとして効果を発揮し、人間性のさまざまな側面を明らかにした。

 映画化に際し、ハミルトンを含む4人の監督がオファーを辞退したが、最終的に監督に選ばれたテレンス・ヤングは、これらのディテールが生み出す効果こそフレミング小説のパワーと魅力の源であることを理解していた。フレミングが自身の経験や知識を利用しボンドを生み出したように、ヤングも自らの世界のディテールに映画版007をどっぷり浸からせたとショーン・コネリーは回想している。

「テレンスは僕らの服やら何やらを買うための旅に連れていってくれた。この映画での服の予算は桁外れだったんだ。だが彼は正しかった。独自の装いになったからね。靴はジョン ロブで注文したし、タイの結びはウィンザーノットだった」

ディテールとお約束 第1作『007 /ドクター・ノオ』のボンドの登場シーンは、映画史に残る名シーンのひとつ。小説でおなじみの名場面と同様、丹念に組み立てられている。キャラクターはディテールの積み重ねによって確立されるため、ボンドが少しずつ披露される構成だ。ブレイズの貴族的な内装は、ロンドンで最も歴史あるカジノのひとつ、アンバサダー・クラブの国際色豊かな環境に変更されている。ボンドの人物像は、次々とクローズアップされるディテールによって築かれてゆく。カードシュー、ディナージャケット、トランプ、シャツのカフ。賭け金の高さを物語るゲーム用チップやシガレットケースに触れる、手入れされた男らしい手。きちんと結ばれた蝶ネクタイ、タバコに火をつける仕草、ライターのカチリという音、口の端から煙を吐き出す姿―そして最後に披露されるのがボンドの名前だ。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 35
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