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アーカイブが語る007

August 2020

text nick foulkes photography kim lang
special thanks to Eon Productions and the London Film Museum

イーオン・プロダクションズのアーカイブディレクター、メグ・シモンズ。

 酒とタバコを嗜む007は、フレミングと多くの好みを共有する分身だった。フレミングは、自分の創作物がこれほど息の長いものになるとは予想していなかったはずだ。彼は『007/カジノ・ロワイヤル』(1953年出版)で、ボンドがアムハースト・ヴィリヤース製のスーパーチャージャーを搭載したベントレーを1933年に購入したと述べている。ところが『007は二度死ぬ』(1964年出版)では、行方不明で生存が絶望視されたボンドの死亡記事をタイムズ紙が掲載し、彼は1941年に17歳であったと報じる。つまりベントレーを購入したのは9歳くらいということ。いくら007でもませている。

 敵もまた前時代の人物であることが多い。フレミングの原作では第二次世界大戦時代のボンドをしばしば描いている。『007/ムーンレイカー』(1955年出版)に登場する悪の親玉ヒューゴ・ドラックスは、核ロケットによるロンドンの潰滅を企むナチ党員だ。この大量破壊兵器は、大戦末期にロンドンに恐怖をもたらしたものと同種のV2ロケットである。

 ついでに言うと、この小説でフレミングはブレイズ(007に登場する架空の会員制クラブ)の歴史設定を入念に構築している。“ビクトリア女王時代の標準的なラグジュアリー”を提供するというブレイズは、セント・ジェームズ地区にあるジェントルマンズ・クラブで、設立は18 世紀後期としている。『ローマ帝国衰亡史』を著したエドワード・ギボンの手紙で初めて言及されたという同クラブは、フレミングの細やかで時代錯誤な想像力が生み出した虚構として存在した。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 35
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