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アーカイブが語る007

August 2020

text nick foulkes photography kim lang
special thanks to Eon Productions and the London Film Museum

『007/黄金銃を持つ男』でのクリストファー・リーとロジャー・ムーア。

 大衆文化において、ジェームズ・ボンドより息の長いシリーズは思いつかない。鉄のカーテンが降ろされた時代に、既にキャラクターとして完成していた彼は、自身を生み出した世界よりも長生きし、いかなる世界的脅威の化身に対しても存分に戦える能力を示してきた。『007/ゴールデンアイ』(1995年)では無法の地と化したソ連崩壊後のロシアと戦い、『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』(1997年)では誇大妄想癖のあるメディア王の権力と、『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』(1999年)では高騰するガソリン価格と、『007/ダイ・アナザー・デイ』(2002年)では北朝鮮と、『007/カジノ・ロワイヤル』(2006年)ではテロリズムの資金源と、『007/慰めの報酬』(2008年)では環境分野の懸念と、そして『007 スペクター』(2015年)では常に潜在する国際テロと戦った。

 この映画シリーズは、脅威や社会の道徳的慣習という点では現代性を維持しつつも、ボンドがボンドとして認識可能であり続ける必要がある。キャラクターが深く根ざしているのは、半世紀前に消え去った「イングランド」。つまり、優しさを欠いた洗練、バックギャモン、ビスポークスーツ、性差別、あらゆる分野(特にワイン)における上流気取り、社会の階層化など、現代にとっては“意識の低い”事柄で構成された世界なのだ。

フレミングのボンド像と世界観 007の作者、イアン・フレミングは、1908年にメイフェアで生まれた。彼は斜陽の大英帝国で育った。20年代に学んだイートン校、サンドハースト陸軍士官学校、ロンドンのナイトクラブ巡り、性的早熟、不労所得、王室に顔が利くファミリー。これらすべてが融合した結果、彼は戦間期における利発な若者の典型的経歴を持つに至る。第二次世界大戦後に振り返ると、このライフスタイルは時代錯誤なものに映っただろうが、彼のそれらに対する愛情は薄れることはなかった。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 35
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