LIVE AND LET LIVE
アーカイブが語る007
August 2020
special thanks to Eon Productions and the London Film Museum
『007/オクトパシー』の有名なバックギャモンのシーン。ロジャー・ムーア演じるジェームズ・ボンドは、ファベルジェの卵を賭ける。
ボンドらしさが保たれる理由 1974年、映画の流行の中心地はハーレムから香港に移っていた。武術が一世を風靡した時代、ボンドもブームを律義に反映すべく、『007 /黄金銃を持つ男』で武道着を着用し、カンフーキックを繰り出す少女たちを連れた姿を披露した。それまでより自由度の高い同作でやはり印象に残るのは、組み立てるとスカラマンガの黄金銃になるシガレットケース、ペン、ライターである。この黄金銃の複雑な作りによって作品が陳腐になるのを防いでいる。黄金銃はシリーズの中でも指折りの印象的なガジェットだ。メグとともに触らせていただいたことは実に光栄であった。中世の人々が聖遺物に奇跡の力があると考えたように、この小道具を組み立てて狙いを定めると、ボンドシリーズが持つ真の力を感じざるを得ない。
第13作『007 /オクトパシー』(1983年)に出てくるファベルジェの卵もまた文化的遺物のひとつだ。ファベルジェの卵は、1963年の短編『所有者はある女性』に登場する、フレミングのディテールに対するこだわりがぎっしり詰まった品である。映画ではアスプレイが制作しており、来歴を長々と解説した架空のオークションカタログが、このオブジェの効果をいっそう高めている。フレミングはブレイズ・クラブにギボンやジョージ王朝時代の余韻を織り込むことでリアルに感じさせる要素を提供したが、映画版の制作者たちも同様に、ファベルジェの卵をロシア皇帝のイースター・エッグ型の装飾品とその由来をもっともらしい形に仕上げるべく、徹底的にこだわった。ちなみに同映画は、ムーアにピエロ姿でサーカス団に潜入させる突飛な筋立てだが、このピエロ姿はボンドの衣装史において間違いなくどん底である。
こうしたディテールに対する注意が、それぞれの時代の流行の映画様式によってボンドが蝕まれることを防ぎ、ボンドらしさを保っている。ゲーム用の角チップからジェットパックまで網羅しているアーカイブについて、メグはこう話す。