LIVE AND LET LIVE
アーカイブが語る007
August 2020
ファベルジェの卵、そしてこの写真の黄金銃に至るまで、
伝説は専用のアーカイブで永久に保管されている。
さあ、永遠のスパイ、ジェームズ・ボンドについて熱く語ろう。
special thanks to Eon Productions and the London Film Museum
「Covid-19」―謎のウイルスが、中国湖北省で発生。陰謀論者たちは、中国の生物兵器が解き放たれたのだと早合点する。ウイルスは恐るべき速さで世界中に広がった。死亡者数は増加。株価は大暴落。各国の政府はパニックを起こし、公共の秩序は崩壊の兆しを見せる。世界は今、未曾有の危機に瀕している―。
今こそダニエル・クレイグの出番だ。筋骨逞しい身体を強調するトム フォードのディナージャケットを纏い、オメガの時計を手首にのぞかせる彼は、アストンマーティンで救助に駆けつけ、世界各地で慌ただしいアクションを繰り広げる。ボンドのマイレージは膨れ上がっているはずで、グレタ・トゥーンベリさんが彼を亡き者にするよう依頼した、と聞いても驚きはしないだろう……。26作目のボンド映画、仮タイトル『ノー・タイム・トゥ・フライ444』をここから始めよう。気の利いたガジェットと、Q課の手指消毒スプレー、スリルに満ちたアクションシーン。そしてフィービー・ウォーラー=ブリッジによる、「#MeToo」時代にふさわしい、ミレニアル世代ならではの名言をおさめた賢明な脚本。これらが揃えばコロナ危機は過ぎ去るだろう。秩序は回復し、株価は急上昇。25作目のボンド映画を延期する必要はなくなる……。
悲しいかな、現状はこの原稿を書いている瞬間も新型コロナウイルスの影は世界を覆いつつある。そしてご存じのように、今年最も重要な映画業界のトピック、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の公開は延期されてしまったのだ。