JERSEY ORDER SUIT
BEAMS 中村達也氏に学ぶ
ジャージー生地で本格オーダー
March 2022
名だたる一流メーカーが、スーツ用のジャージーをこぞって出しているというのだ。
その実態と、オーダーのやり方、着こなしまでを、業界の重鎮に伺った。
Tatsuya Nakamura / 中村達也ビームス クリエイティブディレクター。1963年、新潟県生まれ。1985年ビームス入社。数々の要職を経て、現在はドレス部門を統括する。毎シーズンのトレンドなど、さまざまな情報を世に発信し続けるメンズファッションの顔。最近ではSNSやYouTubeでも活躍。業界では“教授”の異名で知られ、ファッションに対する論理明快な言説では、いまだ右に出る者がいない。
中村氏が着ているスーツは話題のジャージー素材を使ったもの。一見すると、まったく普通のウール素材のようだ。胸のボリューム感、ラペルロールに注目してほしい。ロロ・ピアーナのジャージー素材を使った紺無地のスーツ¥176,000(オーダー価格)Custom Tailor Beams、シャンブレーのシャツ¥27,500 Drake’s、タイ¥14,300 Ross Milano、シューズ¥83,600 Crockett & Jones all by Beams Roppongi Hills(ビームス 六本木ヒルズ Tel.03-5775-1623)
ジャージーといえば、今まではスポーツウェアなどカジュアルなアイテムに使われるのが一般的だったが、ここ最近、テーラーの間で、新しいタイプのジャージー生地が話題になっている。VBCやロロ・ピアーナなど、一流の生地メーカーが、こぞってジャージー製のスーツ生地をリリースしているというのだ。
そこでオーダーメイド・テーラーとしても大きな存在感を放つビームスより、重鎮・中村達也氏にご登場いただき、最新のジャージー生地とはいかなるものかを伺った。それは思った以上に快適で、しかも本格的な仕立てに耐えうるものだった。
スーツの、そしてテーラードの未来を占う手がかりがここにある。
―最近、ジャージー素材のスーツ生地が出回ってきていると聞きましたが?
「実はジャージーでできたスーツというのはここ4〜5年の間、ずいぶん出回っていました。それはウエストにドローコードが入った、いわゆるトラベルスーツといわれるようなモデルで、素材もひと目でジャージーだとわかってしまうようなものでした。主に中価格帯のブランドからリリースされることが多かったですね。ビームスでも一時は人気がありましたが、本格的なテーラードを愛するような人々の間には浸透しませんでした。しかしここ1〜2年、まったく違う種類のジャージー生地が目につくようになったのです」
上から、ロロ・ピアーナ、エルメネジルドゼニア、ヴィターレ バルベリス カノニコのジャージー素材のバンチ(生地見本)。ノーマルのウール素材と見紛うばかりの見本が並べられている。梳毛、紡毛、ツイードまで、あらゆる生地風のジャージーがリリースされている。
―その生地は、今までのジャージーとは、何が違うのですか?
「最大の特徴は、普通のウール地に見えるということです。今回私が着ているのはロロ・ピアーナ社のものですが、言われないと、これがジャージーだとは、誰も気がつかないでしょう。本格的なテーラードの仕立てに耐えうる質感を持っているのです。しかし当たり前ですが、ジャージーですから、ものすごく伸びる。これは画期的です」
―どのような生地メーカーが出しているのでしょうか?
「私はすでに2022年の秋冬生地を60社ほど見ていますが、イタリアのビエラあたりの高級服地メーカーは、もうそのほとんどがジャージー生地を手掛けていると言っても過言ではありません。ロロ・ピアーナ、ゼニア、VBC、バルベラ、グアベロなど枚挙に暇がありません。かつては、そういったメーカーはプライドが高く、ジャージーなどは馬鹿にしていたものです。しかしコロナ後は、オーダーメイド業界から、ラクな生地が欲しいというリクエストがたくさん入り、こういった結果となったのでしょう」
肘を曲げると、体の動きに沿って、素材が自由由在に伸び縮みする。これが極上の着心地を生み出す。Tシャツやトレーナーと同じような伸縮性には、驚かされる。
―実際の着心地はいかがですか?
「はっきり言って、完全にノーストレスです。どんなによい仕立て服でも、スーツである以上、長時間着ていると肩が凝るものです。しかし、ジャージーではまったくそういったことがありません。背中、肘、膝、ヒップがすべて伸び縮みするのですから当たり前です。着心地は、まるで洋服に包み込まれているようです。それにシワになりにくく、意外とクリースも取れにくい。日常着として着るには、最高の素材かもしれません」
―本格的な副資材が使われているとお聞きしましたが?
「普通、ジャージーの仕立てでは接着芯が使われますが、ビームスのオーダー・ジャージースーツは、本格的な“毛芯仕立て”をコンセプトとしています。前見頃には、ごく薄手の手仕事による毛芯を仕込んでいます。それによって、胸のボリューム感や、ラペルの美しいカーブを実現しました。しかも肩や背中は、伸び縮みが効くように設計されています。製作しているのは国内の某一流工房です。この仕立ては、本場イタリアでもなかなか出来ないと思いますよ」
カスタムテーラー ビームスのジャージースーツに内包されている副資材。本格的な毛芯が使われている。これがジャージーであるにもかかわらず、胸部の美しいボリューム感を生み出す秘密だ。
本記事は2021年11月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。
THE RAKE JAPAN EDITION issue 43