February 2022

CHOPARD MANUFACTURE

ウォッチメイキングへの情熱と結実

精度に優れ、仕上げやデザインが美しい時計を開発する―。
その思いを実現させたショパールと、共同社長カール-フリードリッヒ・ショイフレ。
彼が作り上げたショパール マニュファクチュールが、ついに25周年を迎えた。
text tetsuo shinoda

Karl-Friedrich Scheufele / カール-フリードリッヒ・ショイフレショパール共同社長。1958年、ドイツ生まれ。15歳でスイスに移住し、HECローザンヌ校に入学。卒業後に家族経営を行う「ショパール」に入社。クラシックカーを愛し、1988年に「ミッレ ミリア」コレクションをスタート。1996年にはスイス・フルリエにショパール マニュファクチュールを設立し、自社製ムーブメントである「L.U.C」の製造を開始した。

 毎年5月に南仏カンヌで開催される「カンヌ国際映画祭」。レッドカーペットを映画スターたちが彩るが、彼らが纏うハイジュエリーを製作しているのが「ショパール」だ。世界的な名門ジュエラーだが、ウォッチメーカーとしてもその価値を高く評価されている。ショパールの時計には、卓越した審美性と歴史を継承するクラフツマンシップの両方が備わっており、それが唯一無二の個性となっている。

 そもそもショパールの始まりは、1860年まで遡ることができる。創業者のルイ-ユリス・ショパールは、高性能で美しい時計を製造する工房を立ち上げた。この工房の経営権を1963年に引き継いだのが、ドイツでジュエラーをしていたカール・ショイフレ3世だった。ジュエリーだけでなく宝飾時計の製造にも力を入れていたショイフレ家は、ショパールの時計技術を継承するだけでなく、自らが積み上げてきた審美性や創造性も取り入れるようになる。その象徴となるのが、1996年にデビューした自社ムーブメント「L.U.C」である。

 ルイ-ユリス・ショパールの頭文字を冠した「Cal. L.U.C 1.96」は、その性能と美しさで多くの時計愛好家から激賞された。そしてこの自社製ムーブメントを搭載する「L.U.C コレクション」を立ち上げ、1997年に「L.U.C 1860」を発表。これによってショパールは、再びマニュファクチュールブランドへと返り咲いたのだった。

 壮大なプロジェクトを推進したのは、カール・ショイフレ3世の息子であるカール-フリードリッヒ・ショイフレだ。

「創業者であるルイ-ユリス・ショパールの頭文字を冠したL.U.Cコレクションは、1860年にスイス・ソンヴィリエに時計製造工房を立ち上げた偉大なる人物へのオマージュなのです。ルイ-ユリス・ショパールが追求していたもの、それは飽くなき美と芸術への情熱、すなわちオート・オルロジュリー(高級時計)への情熱でした。そして彼のその情熱と真摯なメッセージは、私に引き継がれました」

L.U.C クアトロ スピリット 25ショパール マニュファクチュール開設25年にして初となるジャンピングアワーモデル。中央の一本 が“60”に到達すると、6時位置の表示が瞬時に切り替わる。白地を生かしたシンプルなダイヤルはグラン・フー エナメル製。手仕事から生まれた高貴な光沢をしっかりと味わいたい。世界限定100本。手巻き、18Kエシカルローズゴールドケース、40mm。¥5,621,000 Chopard(ショパール ジャパン プレス Tel.03-5524-8922)

社屋はモダンなガラス張り。

 カール-フリードリッヒ・ショイフレは、L.U.Cムーブメント開発のため、1993年からプロジェクトをスタートさせた。古くから時計産業が盛んであったフルリエのビルのワンフロアに、最新鋭の機械を導入。プロトタイプの制作のために優れた職人たちを集め、L.U.Cムーブメントの生産体制を整えた。現在は、改装したそのビル全体を「ショパール マニュファクチュール」とし、時計製造の拠点としている。

「我々はこの25年、オート・オルロジュリーに関するすべての専門技術を統合させ、真のマニュファクチュールとしての地位を再び確立し、比類なき数々のタイムピースを誕生させてきました。すべてのL.U.Cウォッチは、コレクションの特徴、すなわちひと目でL.U.Cとわかる独特なデザインを有し、クロノメーター認定、優れた精度、ムーブメントの素晴らしい装飾といったスペシャリティを踏襲する必要があります。ショパールのオート・オルロジュリーは、最高の精度を保証するのはもちろんですが、美的側面においても追求します。ムーブメントの精度と審美性を併せ持つバランスこそが、真の時計愛好家が最も大切にしている価値観なのです」

 究極のエレガンスを 求するための技術のひとつとして、L.U.Cムーブメントではマイクロローターを採用している。

「自動巻き用のローターをムーブメントの基板内に埋め込むことによりサイズを縮小できるマイクロローターは、薄さを追求する我々の理想にかなうものでした。しかもCal.L.U.C 1.96(現L.U.C 96.01-L)では、動力ゼンマイ(香箱)をふたつ積み重ねることで、パワーリザーブの拡張だけでなく、より安定した精度を実現しました」

 Cal.L.U.C 1.96は、65時 のパワーリザーブを誇る“世界初のツインバレルを搭載した自動巻きムーブメント”であり、香箱を積み重ねて配置したにもかかわらず、わずか3.3mmという厚みに抑えている。ムーブメントが薄ければ、それだけ時計自体も薄くなり、エレガントなデザインにまとめることができるのだ。

「これは単に、新たな自社製自動巻きムーブメントを開発したというだけではありません。ショパール マニュファクチュール初のL.U.Cムーブメントは、本当の意味で“革新性”を備えたものでなければなりませんでした。そこでジュネーブの伝統的な技法や仕上げを施していることを証明する“ジュネーブシール”と、高精度の証である“COSC 定クロノメーター”を同時に得ることで、私たちのムーブメントに対する取り組みの正しさをしっかりと証明することができたと思います」

フルリエにあるショパール マニュファクチュールが、L.U.Cコレクションの最前線。

社屋の中にはカール-フリードリッヒ・ショイフレが収集した希少な時計などを展示する「L.U.CEUM」というミュージアムも併設。

 ショパールは、市場を見据えて時計を作ることはしない。自分たちの感性を信じるだけ。正確で美しい時計のために、正確で美しいムーブメントを開発し、それを自分たちの手で作ることを目指す。

「1996年にショパール マニュファクチュールを開設したときの夢は、COSC認定クロノメーターとジュネーブシールというふたつの品質基準に裏打ちされた、崇高な審美性と比類なき技術革新を併せ持つムーブメントを作り上げることでした。そして20周年を迎えた2016年までに、自社の全トゥールビヨン搭載ウォッチにおいて、クロノメーター認定を取得している稀有なメゾンとして、その地位を確立しました。また2017年には『L.U.C フル ストライク』で、権威あるジュネーブウォッチグランプリの最高賞、金の針賞を受賞しました。自社のマニュファクチュールがなければ、数々の技術的なマイルストーンを達成することはできなかったでしょう。ショパールマニュファクチュールの歴史は、これまでに挑んできたさまざまな冒険そのものといえます。そして、25年前に私とともにこの冒険を始めた人々が、今でもショパールで活躍する姿を見ることは、私にとって非常に感慨深いことです」

 このようなカール-フリードリッヒ・ショイフレの美しい時計への情熱は、ワイナリーを経営したり、クラシックカーレースに参戦したりといった彼のライフスタイルとも大きく結びついている。

「THE RAKEの読者の方々と同様に、私も洗練された高品質なものに魅力を感じています。ワイン、特に優れたワインの製造は、オート・オルロジュリーと同様、“原則”に従って進められます。最高品質を実現するためには、情熱を持ち、規律を守り、正確で、細部まで気を配る必要があります。ものづくりの過程において、あらゆる面で品質に関して妥協は許されないのです。クラシックカーに関しては、優れたボディワークデザインとエンジンの卓越したパフォーマンスの組み合わせが私を魅了してやみません。まさに同じように、ケースや文字盤のデザインと、内部の機械式ムーブメントのパーフェクトな組み合わせを追求するL.U.Cウォッチの製造との類似点が、はっきりと見て取れるでしょう」

 今年はショパール マニュファクチュール開設25周年にあたる節目だが、カール-フリードリッヒ・ショイフレの情熱は少しも変わっていない。

L.U.C フル ストライク“最も精密な楽器”とも称されるミニッツ・リピーター機構だが、その卓越したメカニズムだけでなく、奏でる音色の美しさも評価対象になっている。ショパール初のミニッツ・リピーターとして2016年に誕生したこのモデルは、チャイム用の専用香箱を内蔵し、パワーが足りないときは作動しないなど、故障を未然に防ぐ安全機構も充実している。音質や音量だけでなく、音の心地よい“間合い”にもこだわっているため、じっくり聴き惚れたい。今年はプラチナモデルが登場。世界限定20本。手巻き、プラチナケース、42.5mm。¥34,760,000 Chopard(ショパール ジャパン プレス Tel.03-5524-8922)

L.U.C フライング T ツインショパール初の自動巻き式トゥールビヨンモデルとして2019年にデビュー。得意とするマイクロローターを利用することで、ムーブメント厚を3.3mmに抑え、ケース全体の厚みもわずか7.2mm。トゥールビヨン機構としてはかなり珍しい“ストップセコンド”機構が採用されており、完璧な時刻修正が可能になったのもユーザーにとっては嬉しい特徴。精度も優れており、COSC 定クロノメーターも取得している。今年はブルーダイヤルモデルが登場。世界限定50本。自動巻き、18Kエシカルホワイトゴードケース、40mm。¥14,454,000 Chopard(ショパール ジャパン プレス Tel.03-5524-8922)

本記事は2021年11月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 43

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