June 2022

JERSEY BOYS

ロロ・ピアーナの
“サンセット”を着る

強さ、快適さ、優雅さのすべてを兼ね備えるロロ・ピアーナの生地“サンセット”。
THE RAKEインターナショナル版編集長トム・チェンバレンが、この生地を用いて至高の一着を仕立てた。
text tom chamberlin
photography kim lang

THE RAKEインターナショナル版編集長、トム・チェンバレンは身長185cmを超える大男。テーラーの苦労は察するに余りある。

 “ジャージー”は誤認の多い生地だ。その名はスウェットシャツのものとされ、同名の島に由来する中世からの起源はほとんど忘れられている。誤解しないでほしいのは、スウェットシャツにサルトリアルとしての価値がないと言っているわけではない。かつて俳優ジーン・ケリーは『LIFE』誌で素晴らしいスウェットシャツの着こなしを披露していた。とはいえ、ジャージーはレジャーウェアの束縛から解き放たれることはなかった。そういう意味で、ココ・シャネルは先駆的な存在だった。それまで肌着にしか使えないと思われていたジャージーを着て、周囲を驚かせたのだ。

 テーラリングにおいて、“快適さ”は必須ではないと考えられてきた。どんなクチュールでも、美しく彫刻的なものを生み出すことが求められている。伝統的なショルダーやラペルといった要素は、見る者を圧倒するためにあるのだ。テーラードを着る人は、見せるためにそれを着るという責任を負わなければならない。これは見せるための服とリラックスするための服のどちらが優れているとか、どちらが純粋だとかいうことではない。重要なのは、これは選択の問題だということだ。

 私はテーラリングのスタイルで揺れ動くような人間ではない。あくまで自分の体型に合った、伝統的なブリティッシュ・ミリタリー・カットにこだわっている。なぜなら、それが自分をプレゼンテーションする最善の方法だと信じているからだ。ゆえにこれまでジャージー素材を選ぶことは決してなかった。しかし、私は浅はかな人間だった。服のスタイルというものはシャープであればあるほど、お洒落のレベルも高くなると勘違いしていた。それを壊すものには嫌悪すら感じていた。だがロロ・ピアーナが、そんな私の偏見を鮮やかに打ち壊してくれたのだ。

チェンバリンのお気に入りのテーラーであるテリー・ヘイストが、彼の型紙からパターンを起こしているところ。下は最初の仮縫いの様子。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 45
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