March 2022

PRINCELY PERSIAN RUGS

美しき“ペルシャ絨毯”の小宇宙

自然への限りない憧憬を、眩惑するような色と文様に託されたそれは、遠い異国へと運ばれ、人々の目を奪い、心を揺さぶる。
奥深い“ペルシャ絨毯”の世界の、ほんの一部を紹介する。

イスファハンのセイラフィアン工房によって半世紀ほど前に作られた1枚。その品質と技術力は、愛好家たちが最後に辿り着くという“あがり”の最高級クラス。

 一流のテーラーやシューメーカーのアトリエに、必ずといっていいほどペルシャ絨毯が敷かれているのはなぜだろう? 草木の生命力。澄んだ水。花咲き誇る“楽園”を表現したこの絨毯は、世界の確かな審美眼を持つ人々を感嘆させている。 ペルシャ絨毯の起源は、3000年前とも5000年前ともいわれる。寒暖差の激しい乾燥地帯である中央アジアを移動する遊牧民族が、羊の毛を刈り、織ったのが嚆矢(こうし)とされる。それは時に布団として、時にコートとして、あるいはテーブルや風呂敷としてなど、さまざまな生活用品として使われていた。やがて技術が進歩し多様な意匠を持つようになると、美術工芸品としての側面が強くなり、シルクロードを通じてイラン国外にもたらされた。

 先述のように、ペルシャ絨毯には草木や花、鳥などの自然をモチーフとした“楽園”が描かれている。生命讃歌、長寿願望、子孫繁栄の意味を持つ生命の樹木。蔓(つる)状の曲線で描かれる唐草文様。小魚を意味する「マヒ」と呼ばれる葉の文様。モスクの丸天井に見られるような同心円状に広がるデザイン。そしてイランの国花、バラの花のモチーフがよく使われる。

 メダリオンと呼ばれる文様を中心に据えるのが伝統的なデザインとされるが、それは円形以外にも菱形や花形などさまざまな形があり、基本的にまったく同じデザインは1枚として存在しない(現代では同じ織り手が数枚手がけることはある)。

イランの首都テヘランのバザールは、生鮮食品から日用品、貴金属、骨董品に至るまで、あらゆるものが集まる巨大な市場。ペルシャ絨毯もまた、数千の店を通じてこの喧騒に満ちた空間に集う。

 素材は主に天然のウールかシルク、あるいはその両方が用いられる。染料もまた自然由来のもので、草木や柘榴(ざくろ)などの果物、鉱物、昆虫(カイガラムシ)などである。色の定着にはヨーグルトが使用され、その種類や量で微妙な色合いの違いを表現する。数百年経っても発色のよさを保つこの独特の色合いは、ペルシャ絨毯ならではのものである。

 経糸にひとつひとつ毛足を結びつける手織りの作業は、ひとりの織り手が最初から最後まで手がける。途中で織り手が代わると、クセや加減で仕上がりが変わってしまうためだ。さらに、洗いや刈り込み、端の処理に至るまで、すべての工程は職人の手作業によって進められる。

 このように、ペルシャ絨毯の製作には年単位の時間が費やされる。そのため、かつては王室や財界人など地位のある者のみが所有できる特別な芸術品であった。イランが世界に誇る、唯一の“踏めるアート”なのである。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 45

Contents

<本連載の過去記事は以下より>

ペルシャ絨毯五大産地と、その特徴

最高級ペルシャ絨毯との出合い方

確かな1枚と出合える専門店:ライオンラグス青山店