June 2022

JERSEY BOYS

ロロ・ピアーナの
“サンセット”を着る

text tom chamberlin
photography kim lang

 最初のフィッティングで予想外だったのは、着心地のよさだ。ピンチするのが効果的なのは知っていたが、ドレープをかけたときの効果は想像以上だった。カットは素晴らしかった。肩幅が広いため、前身頃には少しのゆとりが加えられた。長年同じテーラーに頼み続ける利点はこういうところに出るものだ。

 テリーは私の身体のクセを知り尽くしており、それをいかに隠すかを熟知している。背中のラインはすっきりとしており、ハーフベルトがつけられ、ラペルは半インチ追加された。背面には、肩甲骨の間を横切るように、ヨークが追加されている。これにより、シルエットはより構造的になり、生地に無理がかからないという。フィット感やデザインは、確かにオーダーメイドの大きなアドバンテージだ。

 しかし、私は長年にわたり、サルトリアルの真骨頂は、さまざまな個性を持つファブリックにあることを発見してきた。そしてこれは、その白眉ともいえる1着である。柔らかなカーディガンかと思うほどの着心地のよさと、シャープなテーラリングの対比が際立っていて、とてもエキサイティングな仕上がりだ。

最終フィッティングにて。細部に問題がないか確認される。この後、ジャケットにはボタンが取り付けられ、フィニッシングが施される。

 最終フィッティングのときには、肩のわずかな調整で表情ががらりと変わったのには驚いた。この種の生地について学んだのは、テーラーにとっては扱いが難しく、チャレンジングであるということだ。にもかかわらず、テリーの仕事は実に見事だった。ブラウンとチャコールの落ち着いた色合いの千鳥格子は伝統的なものだが、全体としてはモダンな印象になった。フラップ付きのパッチポケットはサファリジャケットのディテールだが、ダブルブレステッドに付けるのは珍しいだろう。手触りには高級感があり、この素材がとても貴重であることを感じさせる。

 この業界で働いていると、書き出したらきりがないほどの素晴らしい特典がある。中でも興味深いのは、生地が洋服になるまでの工程をつぶさに見られることだ。ロロ・ピアーナの生地は、ボードに巻かれた状態で送られて来たので、私は丹念にチェックできた。一般の方なら多くの場合、スワッチのサンプルしか見ることができないだろう。さて、命を吹き込まれたこの1着を、どこに着て行こう?サンクスギビングのディナー、クリスマスのランチ、キャロル、あるいはオフィスのパーティ……。まぁ正直なところ、このジャケットを人に見せられる口実があれば何でもいいのだが。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 45
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