October 2018

‘IT’S THE CLOSEST I’LL EVER GET TO BEATLEMANIA’

俳優:マーティン・フリーマン
ロングインタビュー

スリーピーススーツ Edward Sexton
シャツ Emmett London
シルクのニットタイ Budd Shirtmakers
眼鏡 USS 本人私物

「リアルなリアクションを撮ってほしかったんだ。本当の恐怖が良かった。つまらない俳優の視点ではなく、テーマを尊重した視点で観客には見てほしかった。普通の目撃者になれるのに、前もって情報を知っておく必要なんてないだろう。きっと観た人々は背筋が凍るはずだ。そうであってほしいしね。僕らだって怖かったんだから」

 この作品で、フリーマンの勉強家の一面が明らかになった。

「僕の仕事の醍醐味のひとつが、どれだけ学べるかっていうこと。だれの仕事もそうだと思うけどね。つまり、どれだけ『そんなこと全然知らなかった』って言えるかが大事。僕は、イスラエルの建国当初、多くの人々がホロコーストのことについて話も聞きたくなかった、っていうことを知らなかった。存在自体を信じたくなかったし、その程度についても信じたくなかったらしい。証言者や生存者に、どんなものか想像もつかないでしょうね、などと言われても、そんなことが起こったわけがないって思うことしかできなかったらしいね」

 会話の途中、彼は何度か眉間にしわを寄せ、疑い深い表情で宙を見つめた。

現実と向き合う俳優という仕事 以前とある記事に、マーティン・フリーマンの演技は一種の現実逃避だと、心理学風にそれらしく書かれていたことがある。だが、演劇学校で聞いた言葉を振り返り、こう語る。

「先生が、『俳優になることが、現実の世界から逃げることだと思っている人は、俳優には向いてない。実際は真逆だ』って言ったんだ。これは真実だよ。演技が現実逃避になるなんてありえないんだ。常に現実と向き合わなくてはいけない。しかも、誠実な俳優であれば、途中で辞めたりもしない。みんな司祭のように、一生背負っていく使命を持っているんだ。つねにさらなる上を目指して努力し続けるってこと。自分からは逃げられないし、必ずしもいいところばかりじゃない自分について知ることにもなる。けれど演技というものは、ある意味、芸術であり、表現方法であり、セラピーであって、いろんな側面がある。だから演技をしているとき、その瞬間の驚きに身を任せれば、独自の新しい考え方が発見できるような感覚で、物事に反応できるんだ」

 マーティン・フリーマンがどういう人間か、よく分かったことだろう。彼は、不可知論的で思いやりがあり、念入りに考え、激しい人生の荒波や、それが人間の状態にもたらす影響にもうまく順応できる人間だということである。

DIGITAL ASSISTANT: SAM FORD
PHOTOGRAPHY ASSISTANTS: TOM FRIMLEY AND MIKE JENNISON
FASHION STYLIST: JO GRZESZCZUK
FASHION ASSISTANTS: MILLIE BRADSHAW AND CHARLIE THOMAS
TAILORING CONSULTANT: FRANCIS PALEY – CHITTLEBOROUGH AND MORGAN
GROOMING: NATHALIE ELENI USING JACK BLACK
WITH SPECIAL THANKS TO THE HOTEL CAFÉ ROYAL FOR THE KIND USE OF THEIR HOTEL AND SUITES.

THE RAKE JAPAN EDITION issue 09

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