‘IT’S THE CLOSEST I’LL EVER GET TO BEATLEMANIA’

俳優:マーティン・フリーマン
ロングインタビュー

October 2018

英国屈指のこの俳優が求めているものが普通っぽさだとしたらまずはその抜きんでた才能を捨てる必要があるだろう。フリーマンという星が描く軌道は、この世界を超越しているのだ。
text nick scott
photography simon emmett
fashion and art direction sarah ann murray

 この記事をちょうど書いていた頃、あるビデオが動画サイトでよく再生されていた。そこには、マーティン・フリーマンが怒り狂った様子で、ケーキやタイプライターをハンマーでめちゃくちゃにしたと思ったら、今度は興奮状態でチェーンソーを抱えて庭の物置小屋へ向かう姿が映っている。この俳優、時には本当の怒りを多少くすぶらせていたのかもしれない。だが、フリーマンのファンも、一連の出演作のファンも心配する必要はない。問題の暴力的な癇かん癪しゃくの映像は、ポール・ウェラーのシングル、『ピック・イット・アップ』のミュージックビデオ(DIYにはまっている男が、平凡であか抜けない自分に苦悩し、人格が崩壊するというストーリー)だったのだ。後半に向かって徐々に盛り上がるファンクな一曲で、そのクライマックスのシーンである。

 フリーマンとウェラーの結びつきといえば、このコラボレーションだけではない。このふたりはともに、ブラッドリー・ウィギンスや、ソーホーのテーラー、マーク・パウエルと並び、命名好きなファッション関係者が「モッズ・スクワッド」と名付けたスタイルを創り上げた第一人者でもある。たしかに、真実ではある。それは、フリーマンが『ホビット』のプレミアでニュージーランド、ニューヨーク、東京を訪れた際にも、パウエルのスーツできめていたことからも証明済みだ。本企画内の撮影でも着用している。

 しかし、彼やポール・ウェラーのことを単に“スタイルアイコン”と呼んではいけない。「アイコンという言葉には、意味がなくなった」とフリーマンは言う。

「『レジェンド』みたいにね。今や誰もがレジェンドだ。もちろんアーサー王やエルビスなら話は別だよ。けれど本当のレジェンドなんて、そんなにいるもんじゃない。君ってレジェンドだよねって誰かに言われると、君こそもっと本を読んで世間を知るべきだよ、って思ってしまう」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 09
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