Mark Henderson Interview

マーク・ヘンダーソン インタビュー

January 2021

サヴィル・ロウの矜持
長年にわたり、ギーヴズ&ホークスを率いてきたチェアマンによる同社の経営戦略とサヴィル・ロウの老舗ブランドとしての真価とは?

Mark Henderson / マーク・ヘンダーソンダンヒルのヘッド・オブ・マーケティングを経て、1996年ギーヴズ&ホークスに入社。現在はチェアマン。サヴィル・ロウのブランド価値を熟知し、グローバルなビジネス展開を図る。英国の職人技を販売する新事業「ニュー・クラフツマン」も展開。

「ギーヴズ&ホークスを知り尽くした男」、現チェアマンを務めるマーク・ヘンダーソン氏には、そんな形容がまさにふさわしいだろう。

 1996年に入社して以来、マネージング・ディレクター、チェアマンを歴任し、老舗の伝統を背負ったテーラーリングハウスを、現在のトータルなメンズウェア・ブランドに作り上げた張本人といっても過言ではない。

 2002年にギーヴズ&ホークスが香港のUSIホールディングスLtd.の所有となったときから、彼の目標は明確だった。それは英国と中国、ビスポークとライセンシー、両方の市場を拡大し、ギーヴズ&ホークスをインターナショナルなメンズウェア・ブランドにすることである。

「ラグジュアリー・ブランドのビジネスを展開するためには一定の市場規模が必要となる。それ以下では利益を生み出すビジネスとして成立しないからだ。ギーヴズ&ホークスは中国と英国、種類の異なる製品のふたつの市場を持つことでこの規模を達成できる。現在、中国ではライセンシービジネスとして百店舗以上を展開している。対して、今回英国では大規模な投資を行い、既製服からビスポークまでを揃えたトータル・ブランドして全く新たなブランディングを開始した。ここに来れば、ジェイソン(・バスマジャン)によるラグジュアリーなギーヴズ&ホークスの全貌がわかるだろう」

 2012年、香港のLVMHと評されるリー&フン社の傘下であるトリニティLtd.の所有となり、この経営戦略はより明確になったようだ。

 「ギーヴズ&ホークスにおける既製服の歴史は1926年にまで遡る。ビスポークと既製服、その両方の製造の歴史を我々は持っている。今回はジェイソンによって、ギーヴズ&ホークスのコレクションはよりインターナショナルで現代的なテイストが加わった。ロンドン・コレクション・メンズも盛況となり、ますますロンドンはメンズ・ファッションにとって重要な市場となる。同時に我々のチャンスも充分にある」と今後の展望を語った。

 それでは新生ギーヴズ&ホークスのブランドの真価は何か?その問いにヘンダーソン氏はこう答えた。「我々の真価はビスポークにあり、長年にわたり、この地に継承されてきた伝統にある」

 この言葉が示す通り、現存する3つすべてのロイヤルワラントを持ち、専門のヒストリアン(歴史家)によって管理されているアーカイブ・ルームには、1797年に初めてロイヤルワラントが授与された記録も残されている。200年を超える王室からの受注は、現在の王室の護衛兵の軍服にまで継続されている。

 この栄光を支えるのはビスポークのクラフツマンシップ、そして鍵となるのが高い技術力の継承だという。

 現在はあらゆる商品に「ビスポーク」という言葉が氾濫している。この事態に対抗し、サヴィル・ロウのビスポークの技術の証明を目的として、2004年にはサヴィル・ロウ・ビスポーク・アソシエーションを設立した。ヘンダーソン氏がチェアマンとなり、ヘンリー・プール、アンダーソン&シェパード、ディージ&スキナーといった老舗のテーラーたちによって主に運営されている。

 その規定によれば、カッターによる直接採寸と個別の型紙の作成、2ピースのスーツに対して最低50時間以上の手作業によって作られることなど、加入には厳密な基準を設けている。

 さらに加入したテーラーが互いに協力し合い、大学からの研修生制度やゴールデン・シアーズ賞などコンテストを設け、ここで働く職人の若返りをも図った。

「サヴィル・ロウは特別な場所だ。世界で最も地価の高いメイフェアの中心に、100人を超える熟練の職人たちが集まり、最高級のスーツを仕立てている。それは我々が持つヘリテージそのものであり、何より重要なのは伝統を継承していく人材にほかならない」

本記事は2015年5月23日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 04

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