August 2019

ELEGANTLY WASTED

“キース・リチャーズ”という神

text joobin bekhrad

ロンドンにあるトゥイッケナムのステージで、2006年。

 サックス奏者のボビー・キーズと一緒に、ホテルの窓からテレビを放り投げたこともあったし、ヒュー・ヘフナーが所有するプレイボーイ・マンションのバスルームで火事を起こしそうになったこともあった。ステージに上がってきた狂信的なファンをギターの裏側で殴り、何事もなかったかのように『サティスファクション』の演奏に戻ったこともあった。

 1977年には再び、カナダのトロントにて、騎馬警官にドラッグの不法所持で逮捕された。重い罪に問われ、刑務所行きは確実で、バンド活動もこれまでかと思われたが、神はまだ彼の味方だった。目の不自由な一ファンがキースに同情的な証言をしてくれて、ぎりぎりのところで収監は免れたのだ。

そして伝説へ トロントでの事件を契機に、キースは落ち着こうと決心した。ヘロインを断って、『女たち』や『刺青の男』でディスコパンクを追求した。二度と同じ過ちを繰り返さないように手錠形のブレスをはめた。

 プライベートでも変化があった。スカンジナビア系の美人モデル、パティ・ハンセンと恋に落ち、数年後の1983年に再婚した。ふたりの絆は今も揺るぎない。やんちゃかもしれないが、彼は基本的には家庭的な男なのだ。娘のセオドーラとアレクサンドラは、母からはスーパーモデルの遺伝子、父からはロックの魂と、両親の良いところばかりを受け継いだ。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 21
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