Tuesday, October 23rd, 2018

マーティン・フリーマン ロングインタビュー
‘IT’S THE CLOSEST I’LL EVER GET TO BEATLEMANIA’

text nick scott photography simon emmett fashion and art direction sarah ann murray

スリーピーススーツ Edward Sexton
シャツ Emmett London
シルクのニットタイ Budd Shirtmakers
眼鏡 USS 本人私物

非の打ち所のない最高作品

 多様性と進歩を好むマーティン・フリーマン。彼には、今日までのスクリーンでのキャリアを誇りに思う権利がある。ピーター・ジャクソンが、彼を『ホビット』の主役に抜擢したときには、すでに『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)、『銀河ヒッチハイク・ガイド』(2005年)、『ホットファズ―俺たちスーパーポリスメン!―』(2007年)をはじめとする、16タイトルもの有名作品に出演していた。しかし、超大物スターとして世界にフリーマンの名を知らしめた作品といえば、ホビットの三部作だった。同シリーズはまた、彼の演技の幅広さを証明することにもつながった。ジャクソン監督も、彼には「片足をドラマチックな世界に入れながら、もう一方の足をコメディの世界に入れる才能がある」と語っている。
 彼は、最も満足できた仕事の経験として、ドラマとしては最後に演じた役の名を挙げている。自身初となるアメリカのテレビドラマ『ファーゴ』のシーズン1で、被害者となって事件に巻き込まれる保険会社のセールスマン、レスター・ナイガードだ。コーエン兄弟が手掛けた1996年の同タイトルの映画を元にした、ブラックコメディのドラマである。
「これまでの仕事の中でも数少ない、悪いところが全く見つからない作品のひとつだよ。ミネソタのシーンもカルガリーでロケしたから、9カ月間毎日寒かったけどね。映像も美しかったし、脚本自体も、本当に素晴らしかった。新しいエピソードの脚本を読むたびに、今回はますます面白くなってるって思えるんだ。ノア・ホーリーは独特の雰囲気を持った、才能あふれる脚本家だよ。コーエン兄弟の世界観をうまく活かしながらも、映画の真似にはしなかったのが実に素晴らしかった」

 アメリカのテレビドラマで活躍するイギリス人俳優といえば、ヒュー・ローリーやアンドリュー・リンカーンもそうで、キャリアを決定づけるポジションといえる。しかし、マーティン・フリーマンの場合、もちろんテレビのおかげで世界中に顔が知れ渡ることにはなったが、逆に祖国に近づくことにもつながった。
『シャーロック』は、アーサー・コナン・ドイル原作の小説を現代的にアレンジした作品。脚本は『ドクター・フー』や『ジキル』などの脚本家スティーヴン・モファットとマーク・ゲイティスの共著で、ホームズ役はベネディクト・カンバーバッチが務めた。番組の人気ぶりは、その数字を見れば明らかだ。
 2014年にシーズン3の第1話が放送されたときには、920万人のイギリス人が視聴した。中国の視聴者は6900万人だとされるが、中国当局が国営テレビで放映するには内容が際どすぎると判断したことから、すべて違法配信で観た人の数である。また最初のふたつのシリーズは、辛口な批評が多いことで知られるアメリカのレビューサイト、ロッテン・トマトで異例の高評価を獲得した。そしてファンの一部はマニアのようになり、推理ドラマブームが再燃した。
「僕たちが使った偽物のベーカーストリートのセットは、『シャーロック』ファンの聖地になった。そこでの撮影は、後ろで映画のプレミアが行われている中で、ロケをしようとするようなもの。ちょっとしたビートルズ狂みたいな、あれほどの熱狂状態を味わうことは二度とないと思う。きっと一部のファンにとって、僕たちはバンド同然なんだ。あれほどの献身的な愛情と忠誠心は見たことがない」
 それほど人々を魅力した理由は何だったのだろうか。
「分からないし、それでいいと思ってる。この作品についてとても誇りに思ってるんだ。素晴らしい脚本と映像。そして共同クリエーターのスティーヴンとマークは、アーサー・コナン・ドイルの大ファンだった。僕らは誰も、こんな人気作になるとは思ってもみなかった。分かっていたのは、僕らは皆この作品が好きだっていうことだけ」
 彼の演じたワトソンとカンバーバッチのホームズの間にエネルギーが生じたことは、思いがけない幸運だった。世界が誇る最高の俳優ふたりを揃えても、相性が良くなければ、このエネルギーは生まれなかっただろう。
「とてもラッキーだった。僕たちふたりが台本の読み合わせを始めたとき、すぐにそれは判明したよ。すでにベネディクトのキャスティングは決まっていたんだけれど、ドクター・ワトソン役には候補が何人かいたようで、その中のひとりが僕だった。でも、明らかにすべてが良くなったんだ。素晴らしい脚本がもっと良く感じられた。僕らはお互い、鍵穴に鍵を差し込むように、相手がしていることにぴたりと調和することができたからね」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 09
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