THE MESSIAH OF DYSTOPIA

アンドリュー・リンカーン インタビュー
“演技”という名の探検

August 2021

text wei koh
photography ruven afanador
fashion and art direction sarah ann murray

 彼が見つけた自由とは、見方によっては、したい放題の探検的かつ極端なもので、イギリスらしくないともいえる。

「たしかにイギリスには訓練を受けるという伝統がある。だけど、訓練を受けていないがゆえのメリットもある。例えば、直感的な俳優のノーマン・リーダスと仕事をすると、アメリカの芝居の素晴らしさを理解する。何も型にはまっていないんだ。イギリスでは、みんなが技術的に熟練しているせいで、同じことの繰り返しに陥ってしまうこともある」

 リンカーンが、この15年間自分の演技を見るのを拒んできた理由がここにある。

「作品の中の自分を見るのが嫌なのは、そういう繰り返しの仕事を避けたいから。楽しいことじゃないし、何の役にも立たない。自分で上手くいくとわかっているパターンを学んでしまうだけ。自分自身を参考にしたくないんだ。いつも小手先でごまかしたり、ずる賢い役者になってしまう。そうなったら演技力は成長しない。アメリカで働いていると、向かうべき目標というのが決められていない感じがする。何かを経験しながら、どこかへたどり着くのを発見する。僕はアメリカ人俳優と仕事をした結果、ますます自由になった。演技とは探検―つまり、自由と発見だから」

 最後に、『ウォーキング・デッド』という作品は、役者人生における重要な遺産になると感じているか聞いてみた。

「この作品が時代を超えて愛されるかどうかは、僕が意見できることじゃない。でもシリーズ全体として見ることでより魅力が増す作品だと思う。それは僕ひとりの努力ではなく、素晴らしいストーリー、キャスト、監督、編集、効果やスタント、すべてがひとつになったおかげ。素晴らしい脚本があるからといって、それだけで素晴らしい作品が生まれるとは限らない。素材は素材でしかないからね。素材を卓越したものに昇華させるためには、特殊な状況も必要なんだ」

 素晴らしいストーリーの本質は、部分的なものの寄せ集めとは程遠い。おそらくこれに最も貢献していると思われるこの男も、同じ意見に違いない。

THE RAKE JAPAN EDITION issue11掲載記事
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