THE MESSIAH OF DYSTOPIA

アンドリュー・リンカーン インタビュー
“演技”という名の探検

August 2021

text wei koh
photography ruven afanador
fashion and art direction sarah ann murray

 監督のダラボンと脚本家のハードはすぐに、熱心で静かなカリスマ性があり、しかも古典的な訓練を受けているリンカーンが主役にぴったりだと確信した。リンカーンは、ちょうど父親になったばかりで、彼の価値観は一変していた。同じ父親としてリックと通じるものを感じていたし、リックが経験したことを人として同じように経験していたのだ。

「当時僕は外見も『普通の人』っぽくて、ほとんど無名だったからね(笑)。それも役に選ばれた理由のひとつだと思う。当時、兄から電話で『ネットで調べたんだけど、この作品はすごい! 絶対しくじったらダメだ』って言われたよ」

失敗は恐れるものじゃない それから6年、アンドリュー・リンカーンはまったくしくじっていなかった。この6年間に失敗への恐怖を抱いたことがあったかを尋ねると、リンカーンから面白い答えが返ってきた。

「この地球上での経験は、失敗の連続みたいなものだよ。『失敗して、また失敗しろ。前より上手く失敗しろ』と言われるように、偉業とはそうやって成し遂げられるもの。医学の重要な進歩もすべてはこうして生まれたんだ」

 失敗することでより良くなれるという考え方は、リンカーンの演じるリック・グライムズと一致している。

「なぜ兄がしくじらないようにと言ってきたのかはよくわかる。でも兄は教師だからこそ失敗の恐怖を長々と語るんだ。僕が俳優という仕事を通して見つけたことのひとつは、失敗を恐れるのをやめたこと。つまり直感を信じ、自分がどう見られるか気にするのをやめたんだ。恐怖を感じるのを防ぐために突然歌ったり、バカなことをしたりするせいで、多くの人が『イカれてる』って言う。でもそれは呪縛を解くためなんだ。失敗を恐れない領域に自分を持っていくようにね。この術を習得できているとしたら、子供にも伝えたいよ」

THE RAKE JAPAN EDITION issue11掲載記事
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