THE MESSIAH OF DYSTOPIA
アンドリュー・リンカーン インタビュー
“演技”という名の探検
August 2021
photography ruven afanador
fashion and art direction sarah ann murray
成功や知名度が裏目に出た経験はあるか尋ねると、彼はこう答えた。
「名声とは奇妙なもので、人を陶酔させるもの。でも実体はない。とてつもない経験だ。その波に乗るのを純粋に楽しむことが大切だと思う。昔は、報道陣に会ったら何か表現しなきゃと思ってた。でも気づいたんだ。僕はドラマの撮影で自分の仕事はすべてやり遂げているんだってね。自分の仕事を愛しているし、みんなとドラマへの熱狂を共有できることが嬉しいんだ。この仕事を23年続けてきたけど、年を重ねるほど自分に正直でいたいと思うようになった。いろいろな役を演じるのに人生は短すぎるからね」
大役を拝命するまで アンドリュー・リンカーンは『ウォーキング・デッド』の主役を手にしたときのことを思い起こしていた。
「『ウォーキング・デッド』というタイトルを目にして、なんて美しく哀愁を帯びているんだと思ったんだ。それに、監督がフランク・ダラボンで、脚本がゲイル・アン・ハードだということを知ってすごく興奮した。でも、あらすじを読んだら『ゾンビ、サバイバル、ホラー』と書いてある。すぐにエージェントに電話して、『冗談だろ? 古典的な演劇の勉強をしてきた僕に、ゾンビはないだろ』って言ったんだけど、それから3シーン読んだところで、すぐにこのドラマがいかによく出来ているかわかった。すぐさま自分の演技をテープに録画して送ると、翌朝ロサンゼルスから電話があって、少し手直しをして撮り直してほしいとリクエストが来たんだ。監督とはスカイプで1時間半も話をした。彼は『蝿の王』のような作品にしたいと言っていた。それから、サバイバルやトラウマをイメージさせるジェリコーの《メデューズ号の筏》やピカソの《ゲルニカ》といった美しい芸術作品についても語り合った。これは素晴らしい作品になると確信したよ」
その後、リンカーンはさらにリサーチを進め、原作のコミックを見つけた。
「カムデンのコミックショップに行って、店員に『ウォーキング・デッドとかいうの、ある?』と尋ねると、指をさして教えてくれたものの、そこは壁一面のコミック本。『この中のどれ?』と聞くと、『全部そうです』って言われたよ。読破した後、オーディションを受けるためにロサンゼルスへ渡った。向こうに着いたときは、完全に時差ボケに陥っていた。少し前に子供が生まれて、寝不足が続いていたからね。でもちゃんとやり遂げたかったし、失敗したくなかった。オーディションは過去にも受けたことがあったけど、偉い人たちの前で皿回しをやらされているような気分になることもある。だから、『純粋に本読みだけやらせてほしい』と頼んだんだ。そのとき、ジョン・バーンサルは既に出演が決まっていた。最高の俳優のひとりである彼と一緒に仕事ができるのは光栄なことだよね」