THE MESSIAH OF DYSTOPIA

アンドリュー・リンカーン インタビュー
“演技”という名の探検

August 2021

text wei koh
photography ruven afanador
fashion and art direction sarah ann murray

「まるでトロイの木馬だよ。フランク・ダラボン監督の狙いは、この作品をB級ドラマに見せかけてお茶の間に進出し、シェークスピア風の神話的な悲劇で人々の胸を張り裂けさせることだった」

 この10年、エンターテインメント業界ではある種の逆転現象が起こっている。テレビドラマというメディアはかつて、色気や野心に欠ける映画の妹のような存在だったが、今では全体的に貪欲な作品が増え、長編映画をしのぐ勢いで急成長を遂げている。テレビの黄金時代ともいわれ、大衆向け作品に進化をもたらす最大の促進剤となっている。

「メインキャストが魅力的なら、視聴者も長時間観ていたくなるということが理解されたんだ。ドラマが映画に比べて優れている点は、2時間という圧縮された時間ですべてを出しきる必要がないこと。時間をかけてキャラクターを進化させることができるんだ。リックが経験した目まぐるしい変化を圧縮したら、とんでもない批判を受けるだろうね」

『ウォーキング・デッド』の制作者たちは、もうひとつ勇気ある決断を下した。それは、この作品のすべての効果を、デジタルに頼らず本物のメイク、俳優、スタントにこだわって制作することだ。

「CGをほとんど使用しないというコンセプトで生々しさを演出している。ゾンビは本物の俳優が演じているから、僕たちより大変だよ。撮影が始まるまで何時間もメイクしたまま過ごさなければならないからね。それに、本物のスタントや炎の効果も使ってる。そのおかげで、よりリアルな感覚が増すんだと思う」

『ウォーキング・デッド』は、今なお16ミリフィルムで撮影されている。さらに特徴的なのは、沈黙が効果的に使われていることだ。

THE RAKE JAPAN EDITION issue11掲載記事
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