Making the Ultimate Bush Jacket

究極のブッシュジャケットを作るPart 4

July 2022

ブリティッシュ・ミリタリーの傑作と称される1950年代のブッシュジャケットを徹底的に研究し、生地から作り込んで現代に蘇らせたビスポークテーラー・水落卓宏氏。

これまではそのメイキング・ストーリーを紹介してきたが、連載最後となる第4回(過去の記事:part1part2part3)では、その着こなし法を水落氏が自ら実践してご紹介しよう。

 

 

text takahiro mizuochi (bespoke tailor dittos)

direction hiromitsu kosone

 

 

 

 

 過去3回の記事でご紹介してきたように、並々ならぬ意気込みで取り組み、遂に完成を迎えたDittosのブッシュジャケット。歴史の流れにもとづいて発展・進化を遂げた、説得力高きサープラスガーメントである。軍モノゆえ機能面でも素晴らしい性能を備えていることはいうまでもない。

 

 さて、最終回となる本稿では、このブッシュジャケットをどのように着こなし、楽しむかについて、僭越ながら私個人の活用例を披露させていただきたい。少しでも参考になれば嬉しい限りである。

 

 

 

 

 まず、この「サファリジャケット」を着た紳士のイラストをご覧いただきたい。ブッシュジャケットは英国生まれのサープラスガーメントであり、現在ではサファリジャケットと同一視されている(むしろこの名のほうが一般的だろう)。私個人としては両者を区別したいところだが、大まかなデザインは共通ゆえ、このイラストに描かれたサファリジャケット・スタイルは大いに参考となる。私も若いころから憧れてきた着こなしだ。

 

 これを踏まえたのが下のコーディネイトである。ご笑覧いただきたい。

 

 

 

 

 葛利毛織が蘇らせた復刻セルラーコットン素材で、ジャケットと共生地のフラットキャップも仕立ててみた。コーディネイトのテーマは「ブリティッシュ・グリーンのクラシックなオープンカーでドライブ」。コスプレ上等、ロマンある装いを大いに楽しんでいただきたい。トラウザースは、ウールとリネンが半々でブレンドされたサンドベージュのスーツの組下を活用している。

 

 

 

 

 高番手のオックスフォード生地によるギンガムチェックシャツは通気性もよく清涼感あり。サングラスは陽射しから眼を守る機能的なアイテムだが、帽子も同様。ライニングにはメッシュ地を取り付けている。ただ格好をつけただけでない、理に叶ったコーディネイトは装いに説得力をもたらしてくれる。もし本当にクラシックカーを運転するなら、胸ポケットにドライビンググローブも差しておきたいところだ。

 

 

 

 

 着こなし例・その2。ベーシックなグレイトラウザースはトロピカルウールで仕立てたもの。ラミー(芋麻)のホワイトシャツにチェック柄のヴィンテージネクタイを合わせ、フロントボタンは4つすべてを留めてみた。サープラスジャケットはその歴史に鑑みても、タイドアップスタイルには必ずといっていいほどマッチするものである。

 

 

 

 

 ここからは着崩したスタイルに。ネクタイを外し、代わりにスカーフを首元にあしらった。トラウザースはブリスベン・モスの名作生地「TENNYSON」で仕立てたもの。是非ワードローブに取り入れていただきたいベーシックウェアである。シャツの生地はカルロ・リーヴァの「INDIGO TELA」。大のお気に入りで、個人的に3枚仕立てている。最高級の原綿を使用し、見た目に反して非常に薄く、軽量。肌触りは極めてソフトで、着ていることを忘れるほどの快適さを味わえる。ブッシュジャケットとは色のメリハリもつき、抜群の相性だ。ジャケットのカフスボタンを外して袖をまくれば、ラフで涼やかな印象に。シャツのブルーが手元にも覗き、適度なアクセントになる。足元は軽快なスリッポンが好相性。トラウザースの色を拾って、コンビローファーを合わせてみた。

 

 

 

 

 バックスタイルも非常に美しい。機能性も兼備した素晴らしいデザイン……私が考案したのではなく、あくまでも「1950 PATTERN BUSH JACKET」の美しさである。このコーディネイトはスカーフも含め、すべてのアイテムが水洗いできるので、汗汚れも気にせず楽しめる。

 

 

 

 

 再びイラスト。ラクダのいる砂漠の風景に、ホワイトトラウザースが完璧なマッチングを見せている。さすがに砂漠へ行く機会はそう多くないと思われるが、日本なら鳥取砂丘などへ出かける際には是非ブッシュジャケットを携えてほしいものだ。ちなみに鳥取砂丘でもラクダ乗りを体験できる。一緒に写真撮影もできるので、家族旅行にもぴったりだ。

 

 

 

 

 もう一段階、涼しくラフに進んだコーディネイト。夏をイメージした服装で、インナーにはジョン スメドレーの半袖ポロシャツを着込んでいる。トラウザース生地は前出のブリスベン・モス「TENNYSON」の色違い。ブッシュジャケットのウエストベルトは結ばず腰ポケットにインし、袖をまくって涼やかに。

 

 

 

 

 首元はアスコットタイなどもいいが、より軽快で無造作な雰囲気のスカーフが個人的に好み。ジョン スメドレーは現在、さまざまな襟型をラインナップしているが、私はクラシックな「ISIS」派だ。余談だが、リブ襟は洗濯を繰り返すうちに伸びてだらしない印象になってしまうため、洗濯後はアイロンでイセ込みプレスするのがおすすめ。Dittosに足をお運びいただければ、プレスのコツをお教えしよう。

 

 

 

 

 さらにカジュアルな着こなし例。ちょっとガラが悪く見える?という懸念はさておき(笑)、ドイツ製のヘンリーネックTシャツにリバティプリントのスカーフを合わせている。これはコットン製で、大きめなハンカチにも近い感覚のアイテムだ。ボトムスは既製品のワークトラウザース。原型は寒冷地で防寒用に重ね着するオーバートラウザースである。ダークオリーブの色みがブッシュジャケットのカーキと好相性だ。足元はスニーカーでカジュアルに。

 

 

 

 

 ちょっと小粋に、襟も立てて。ここまでカジュアルダウンしたリラックススタイルにまで落とし込めるのは、ブッシュジャケットならではの懐深さといえるだろう。

 

 このほか、マドラスチェックやプリントのシャツ、オープンカラーシャツなどを合わせてもサマになる。鹿の子のポロシャツやジーンズのような、誰もが持っているアイテムにもすんなり馴染んでくれるはずだ。

 

 

 

 

 ちなみにブッシュジャケットを半袖にカスタマイズして、より夏向けに楽しむという手もアリ。また、ゴルフシーンで活用してもいいだろう。持ち前の機能性を存分に発揮してくれるはずだ。

 

 

 

 

 春夏の装いにおいて、必ずや重宝するだろうブッシュジャケット。芯地で成形せず、裏地やパッドも一切ないシャツジャケットの類型である。普段着はもちろん、ドライブや旅行にも最適。ビジネスウェアがカジュアル化した昨今では、仕事着として使えるという方もいるかもしれない。半袖ポロシャツ一枚と比べて、上着があるだけで俄然印象が変わるはずだ。空調が効き過ぎた盛夏の室内でも役立つだろう。汚れても簡単に洗濯できるため、小さな子どもを持つ父親にもおすすめだ。

 

 

 

 

 3サイズで展開する本作だが、袖丈に関しては短くすることはもちろん、多少長くお直しすることもできるように設計してある。清涼感ある軽快な生地のため耐久性が高いとはいえないが、傷んでも大抵のリペアは可能だし、擦り切れたところをパッチやパイピングであてがうのも英国的で味わい深いものだ。価格は9万9000円で、現在Dittosで発売中。歴史が生んだサープラスガーメントの傑作を、是非ともワードローブに加えていただきたい。