LONGINES CEO _ Patrick Aoun
ロンジンCEO、大いに語る。エレガンスは、揺るがない
September 2026
ロンジンの創業200周年に向けて舵取りを託されたのが、CEOのパトリック・アウン氏だ。先行きの読めない時代に、歴史あるブランドをどこへ導くのか。その経営哲学と未来像を語ってくれた。
text Tom Chamberlin
パトリック・アウン
Patrick Aoun
レバノン出身。香水・化粧品業界を経て、2005年にスウォッチ グループへ入社。ラドーの中東地域を担当した後、2007年にロンジンへ移籍し、中東・東南アジア市場の発展を牽引。2017年からスウォッチ グループのインド事業を統括した。2025年6月、ロンジン社長兼CEOに就任。2032年の創業200周年に向け、伝統を現代に生かすブランド戦略を推進している。
多くの人にとって時計の世界で最初に出会うブランドといえば、ロンジンだろう。私もそうだった。祖父が、ゴールド製メッシュブレスレットを合わせた50年代の「フラッグシップ」を大切に所有していた。
時計ブランドのCEO交代は、スイス時計業界を見守る人々にとっていつも関心の的だ。昨年就任したパトリック・アウン氏も例外ではない。あと数年で創業200周年を迎えるブランドの舵取りを任されるのだから、その責任は軽くない。
先行きが読みにくい時代に、ブランドの力を最大限に引き出すには、確かな判断力がいる。そこでアウン氏に、この激動をどう乗り越え、ロンジンをどこへ導こうとしているのかを聞いてみた。
スイス時計業界で、ロンジンのようなブランドが未来を見据えるには、アーカイブから着想を得ることが欠かせません。私たちの豊かな歴史こそが、ロンジンの未来をつくっていくのです。ファッションはトレンドを追いますが、今日流行っているものも明日には見向きもされない。でもロンジンは、時代を超えて受け継がれるブランド。今身に着けている時計は、50年後もまだ着けられる。タイムレスでありながらクラシックでエレガントな時計は、ファッションと同じ役割ではありません。
クラシックというのは、流行遅れという意味ではありません。これからもずっと残り続ける、という意味です。だから私たちはトレンドを追いません。リスクも高いですし、あっという間に廃れかねませんから。私たちにはウォッチメイキングの長い歴史とノウハウの蓄積があります。それを土台にしながら、ムーブメントにも、着け心地にも、デザインにも、常に新しいものを加えています。
今年3月に発表した「ハイドロコンクエスト」にも、新しい色を取り入れました。これはファッション的なのかと聞かれれば、答えはノーです。着想源は、1992年に手がけた「アドミラル ダイバー」。当時のデザインに忠実でありながら、30年前にはなかった色を求める今の消費者を惹きつける──そこに、歴史と現代性の融合があるのです。
とはいえ、そういった普遍性があるからといって、世界情勢の変化と無縁ではいられません。だから私の考え方はシンプル。チームにもいつも「シンプルにいこう」と伝えています。たとえば「ハイドロコンクエスト」の価格は1,850スイスフラン(日本販売価格:¥324,500~)。自分へのご褒美に、あるいは何かの節目に、確かな技術と美しさを備えた時計として、手の届きやすい価格です。私の戦略は非常に明快です。1,000から5,000スイスフラン(約20万~100万円)なら、ロンジンの時計を買える人は世界中にたくさんいますから、一貫してこの価格帯に魅力ある製品を投入し続けます。
私が大切にしているのは、「言ったことを実行する」こと。一貫性を持たせて、進むべき方向をはっきり示す。組織やコミュニティをつくるうえで一番大切なのは、明確さとビジョン。相手に何を期待しているのかを、まずはっきり伝える。そして導いていく。「1,000から5,000スイスフランの価格帯でリードする存在になる」と言って、その枠に収まらない開発を求めることはありません。
私を突き動かすのは、人が人生で何かを成し遂げる物語です。「あなたにとってロンジンとは」と聞かれたら、「ライフスタイル」と答えます。ロンジンと聞いてまず思い浮かぶのは、勇気だからです。初の大西洋横断飛行に挑んだ冒険家たち、北極や南極を目指した探検家たちと、私たちは歴史をともにしてきました。100年前、女性が挑むなんて考えられなかった挑戦に踏み出した女性探検家たちにも、寄り添ってきたのです。
私にとってリーダーシップとは、まず自分が手本を示すこと。できる限り現場を離れないことです。現場に足を運んで、販売スタッフの声に耳を傾ける。自分とは違う意見にも、ちゃんと耳を貸す価値があると認めることです。
共通の目的が生まれた瞬間、そこで働く人たちのあいだに強い帰属意識が芽生えます。リーダーとは、チームが必要としているときに寄り添える存在。指示を出すだけじゃなく、自ら進むべき道を示す必要がある。何より大切なのは、自分で手本を示すこと。それに尽きます。
HydroConquest
ハイドロコンクエスト
人気モデル「ハイドロコンクエスト」が今年3月に刷新して進化。39mmと42mmを展開し、約72時間のパワーリザーブと30気圧防水を備え、耐磁性にも優れる。針とインデックス、逆回転防止ベゼルの「0」位置にはスーパールミノバ®を配し、暗所での視認性も高めた。本写真のモデルは、自動巻き、SSケース、39mm。¥343,200 Longines
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4色のダイヤルと5色のセラミックベゼルを展開。各モデルには、ミラネーゼメッシュまたはHリンクのステンレススティール製ブレスレットを組み合わせた。左上から時計回りに3点:フロステッドブルー文字盤モデル/スレートグレーベゼルモデル/エレガントなHリンクブレスレットを採用したブラックダイヤルモデル。いずれも39mmと42mmを揃える。
ロンジンは、「ロイヤルアスコット」におけるオフィシャルパートナーおよびオフィシャルタイムパートナーを務めている。
エレガンスとは自信であり、時代を超えて受け継がれるもの
スポーツは、長くロンジンの歴史を形づくってきました。1878年、ロンジンは自社初のクロノグラフをつくりました。それが数年後、ニューヨークの競馬の計時に使われた。以来ロンジンは、国際連盟や競技団体から信頼される計時パートナーであり続けています。
スポーツには感情が伴う。だから素晴らしい舞台になるのです。今年1月、キッツビュールで「ハーネンカム」の滑降レースを観戦しました。1位と2位の差はわずか0.07秒。優勝者は喜びに包まれ、2位の選手は表彰台で涙をこらえていました。正確に計測されなければ、こうした出来事は意味を持ちません。
スポーツは男女を平等に扱ってくれます。ロンジンが障害馬術に力を入れているのは、100年以上の関わりに加えて、男女が対等に競い合う唯一のスポーツだから。素晴らしいことです。スポーツは中立で、あらゆる人に開かれています。
私がコミットしたいのは、これからもロンジンがロンジンであり続けるということ。革新を続け、自らに挑みながらも、ブランドとアーカイブは常に尊重し、消費者を活動の中心に据え続けます。
今日、ロンジンと聞いて多くの人が思い浮かべるのは「エレガンス」でしょう。1996年に発表したスローガンは、「Elegance is an attitude.(エレガンスを身に纏う)」。この理念をさらに発展させたいと考えています。
エレガントな人は、他者からの承認を求めません。自身を主張する必要も、華美である必要もない。自分に確信を持っているからです。エレガンスとは自信となり、時代を超えて受け継がれるもの。楽しさと真剣さ両方を兼ね備えています。
若いエグゼクティブが初めて手にする時計として、ロンジンを選んでほしい。世代を超えて、このブランドへの理解と親しみを育てていきたいんです。ロンジンは、決して裕福な人だけのブランドではありません。これほどの歴史と奥行き、クラフツマンシップを、手の届きやすい価格で腕にできる──それこそが、ロンジンの一番の魅力だと思っています。






