Landrover Defender 110 V8 Carpathian Edition

英国セレブが愛するクルマ「V8」を得て、さらなるステイタス

December 2023

text & photography kentaro matsuo

 

 

 

 

 ジョージ・バンフォードをご存知だろうか? 彼は英国を代表するセレブリティのひとりである。父のアンソニー・バンフォードは、英国アトックシターに本拠を置く建設・農業機械製造の多国籍企業「JCB」のオーナーで、「サー」の称号を持つ。母のレディ・キャロル・バンフォードは、世界中のホテルで愛用され、日本でも人気のコスメ&スパ・ブランド「Bamford」のファウンダーである。つまりジョージは、億万長者の貴族の家に生まれたのだ。

 

 彼自身の職業は、ウォッチ・カスタマイザーである。18歳のときにロレックスにDLCコーティングをしたことを皮切りに、数々の時計をセンスよくカスタマイズし、一躍有名となった。今では自らのブランド「Bamford Watch Department」を設立し、タグ・ホイヤー、ゼニス、ウブロを擁するLVMHグループ唯一の公式カスタマイザーとしても認められている。日本では藤原ヒロシ氏が愛用していることで知られ、フラグメンツとのコラボ・ウォッチもリリースした。先日のGPHG(ジュネーブ時計グランプリ)では、審査員も務めた。

 

 

photography rikesh chauhan 

 

 

 

 そんな彼が愛して止まないのが、ランドローバー ディフェンダーなのである。もともと彼は初代ディフェンダーの熱烈な支持者だった。

 

「ディフェンダーは英国工業界における最高の輸出品のひとつであり、他国のオフロード自動車のライバルたちと鎬を削ってきた。そのボキシーなボディは、地球上のあらゆる場所を走破してきた。キャメル・トロフィーからさまざまな遠征、エベレスト登山の道中など、ディフェンダーはこの星のいたるところで目にする。私は世界中どこにいても『ランディ』を見かけると、写真を撮ってソーシャルメディアに投稿するのが大好きなのだ」と彼は綴っている。

 

 そんな彼の現在の愛車が、現行のディフェンダーなのだ。発売前は「懐疑的」だったらしいが……

 

「ランドローバーに1台貸してもらって運転してみたら、すっかり惚れ込んでしまった。これはまさしく21世紀のディフェンダーだ。すべての現代的な快適さを備えている。もちろん、ハンドルを切った時に、肘が窓からはみ出てしまうような、変な姿勢を強要されることもない」とユーモアを交えつつ、褒めちぎっている。

 

 ジョージはディフェンダーを気に入ったあまり、2022年には、ディフェンダーとのコラボ・ウォッチもリリースしている。

 

 

 

 

 最近では、ディフェンダーはファッショニスタの間で引っ張りだこである。デザインに敏感でお洒落な人は、皆ディフェンダーを欲しがっている。こういう性能や価格を超越したブームは、トップ・インフルエンサーから連鎖反応的に広がっていくから、ジョージ・バンフォードの影響は小さくないはずだ。彼は約3年前にTHE RAKEに寄稿した文章にこう書いている。

 

「クルマとしても、本当によくできているのだ。チーフ・デザイナー、ジェリー・マクガバンと彼のチームは素晴らしいデザインを開発した。欲しいものはすべて揃っている。まあ正確にいうと、『ほぼすべて』だが……、ひとつだけ例外がある。ディフェンダーにV8が搭載されていたら、それはなんと素晴らしいものになるだろう。おそらく実現はしないだろうが……。それでも私は、ついつい夢見てしまうのだ」

 

 2023年秋、ジョージ・バンフォードが夢見たV8搭載のディフェンダーが、ついに現実のものとなった。ユーティリティ・ヴィークルにスーパースポーツのエンジンを採用した一台が上陸したのだ。

 

 

 

 

 現行ディフェンダーのエクステリアは、真四角な箱のようなボディ、垂直・水平なラインなど、初代の面影を色濃く残している。大きな羊羹のようにも見える。丸いライト、リアに積んだスペアタイヤなども質実剛健なオフローダーを印象付けている。

 

 それでいて、ディテールに目をやると、すべてが現代的にリファインされている。LEDライトや22インチのアルミホイールが採用されている。ジェリー・マクガバンは自らを「細部を仕上げる編集者のような存在」だと言っている。

 

 

 

 

 今回、試乗・撮影にお借りしたのは、「Carpathian Edition」という特別仕様車だった。ボディはカルパチアン・グレイと名付けられたマットカラーで塗られ、大径の22インチ・アルミホイールとブレーキキャリパーはブラックアウトされている。バンフォードがディフェンダーをカスタマイズしたら、きっとこうなるだろうという仕上がりだ。

 

 

 

 

 インテリアも、まさに「男の仕事場」といった趣きだ。定規で線を引いたようなダッシュボードには無駄なものが一切ない。アルカンターラを張ったステアリング・ホイールも現代のクルマにしては大きく、握りやすい。質実剛健で、虚飾がないのだ。

 

 ある自動車評論家は、「豪華に、お金持ちに見せようとすればするほど、貧乏くさくなる」とクルマのインテリアについて正鵠を射たが、ディフェンダーのそれは真逆である。上質な素材を適正に選び、使いやすくレイアウトすれば、それがラグジュアリーにつながるのだ。

 

 

 

 

 上質のレザーが奢られたシートはヘンな模様が入っておらず、シンプルで好感が持てる。素材が高級なら、その質感を生かし、そのまま使うのが一番いいのだ。ドアハンドルも大きい。ドアを開ける時に、いったいどこを掴んだらいいのか、しばらく考え込んでしまう現代のクルマとは大違いである。

 

 後席のレッグスペースは広いし、ヘッドクリアランスに優れているから、ショーファー・ドリヴンとしてもいいかもしれない。ディフェンダーから、フェルトのフェドラ帽を被った紳士が降りてきたら、下手なリムジンよりよほど絵になるだろう。

 

 

 

 

 テールゲートを開けると、広大なトランクスペースが出現する。奥行きプラス高さがあり、なにより真四角だから、実に使いやすそうだ。初代ディフェンダーは、英国貴族が自ら所有する領地を視察するためのアシだったという。(港区くらいの土地を所有している人もいるから、クルマが必要なのだ)。かつては狩猟のための銃一式、ピクニックセットなどを運んでいたのだろう。現代なら、ブロンプトンの折りたたみ自転車などを積んで出かけたら、楽しみが広がりそうだ。

 

 

 

 

 積まれているV8エンジンは、5.0リッター、スーパーチャージャー付きで、最高出力525PS、最大トルク625N・mを叩き出す。

 

 実はV8エンジンを積んだディフェンダーは1970年代から存在した。当時のV8はローバー製で、もともと60年代のアメリカに起源を持つ、古い歴史を誇るパワーユニットであった。モーガンやMGなど、英国を代表するスポーツカーに採用されてきた名エンジンだ。筆者はローバー製5LV8を搭載したTVRに乗っていたことがあるが、とにかくトルクフルでめちゃくちゃに速かった。

 

 

 

 

 現行ディフェンダーに載せられているV8は、完全に新世代のものだけれど、ブリティッシュV8の味付けは変わらない。とにかく雄々しく、猛々しいのだ。アングロサクソン人にとっては、力こそ正義なのである

 

 4本出しのマフラーからは、V8特有のドロドロとしたエンジン音が聞こえてくる。踏み込むと、まるで投石機から打ち出されたような加速を味わえる。背中にかかるGは相当なものだ。車重2.5tの巨大なクルマが、スポーツカーのように走る。ダンプカーにF1エンジンを載せたら、こんな感じになるのかもしれない。

 

 しかし普通に走っている分には、とてもジェントルな乗り心地だ。高いアイポイントと相まって、心底リラックスしたドライブを楽しめる。伝統のエアサスはますます磨きがかけられている。何より車重が重いので、慣性の法則が十分に働き、高速道路のピッチングなどはないも同然である。基本的には、ゆったりとした長距離ドライブに向いたクルマである。

 

 

 

 

 ディフェンダーのサイズは大きい。全長5m、全幅2m、全高2mである。しかし、直方体のごときデザインだから、車幅や四隅が掴みやすく、取り回しは難しくはない。さらには車体に取り付けられたカメラの画像を合成し、クルマの真上や外側から見ているような視点や、ボンネットが透けているような映像を得ることができる。オフロード走行はもとより、車庫入れや縦列駐車の際は重宝するだろう。

 

 

photography rikesh chauhan 

 

 

 

 ディフェンダーに対するジョージ・バンフォードの結論は、以下のようなものだった。

 

「私は完璧主義者なので、どこか欠点を挙げようと思うのだが、驚いたことにいまのところ、それらしい点が見当たらない。私のお気に入りの『アシ』は、いつもレンジローバーだったが、新しいディフェンダーはそれに勝るとも劣らない。今まで乗ったクルマの中で、最も素敵なクルマのひとつであることは間違いない。私は特に、その汎用性の高さが大好きだ。ビルの谷間を走り、映画のプレミア試写会や、ザ・ドーチェスター・ホテルに乗り付けるのにぴったりだ」

 

 ディフェンダーは、オフローダーであるにもかかわらず、実に都会的なクルマだ。本物志向だからこそ、アーバンなシーンに似合うのだ。今回V8エンジンを得たことによって、そのステイタスは、さらに高まった。英国の、そして日本のセレブリティのアシとして、これ以上のクルマはないといえよう。

 

 

ランドローバー ディフェンダー110

V8 Carpathian Edition

全長✕全幅✕全高:4,945✕1,995✕1,970mm

車重:2,450kg

エンジン:4,999cc 水冷V型8気筒 スーパーチャージャー付き

最高出力:525ps/6,500rpm

最大トルク:625Nm/2,500〜5,500rpm

¥ 16,850,000 Landrover