INTERIOR SUPERIOR

ジェレミーのアストンマーティン

September 2018

 

 ハケットのビジネスはトントン拍子に大きくなり、ついにはラグジュアリー・ブランドのコングロマリットであるリシュモン・グループをはじめ、多くの投資を受けるまでになった。

 

 しかし、ジェレミーは“会長”として会社に残り、服飾に対する多くの経験と知識をファンに与え続けた。ブランドの現在のオーナーは、彼の価値をいよいよ重要視しているように思える。彼は世界中を飛び回り、ファッション新興国の人々に、モーニングコートの着こなし方や、どうやって英国傘をきっちりと巻くか、などを教えている。

 

 ロンドンにいる間も、南イングランドにある邸宅で、のんびりしているヒマはない。彼はいつも大忙しだ。まず飼っている犬を散歩に連れて行かなければならない。撮るべき写真もたくさんある。書かなければいけない原稿は山積みだ。お気に入りのレストラン、ロンドンの“ウィルトンズ”でのランチの約束は列をなしている。ダヴィドフのオーナー、フランコは、ジェレミーに試してもらいたいシガーを山ほど用意して、手ぐすね引いて待っている。そして今回、あのアストンマーティンのデザインを手掛けるという仕事もしなければならなくなったのだ。

 

 

 

 アストンマーティンといえば、紳士のためのクルマで、ベントレーの好敵手である。ジェームス・ボンドが、アストンマーティンとベントレーの両方を運転したのは間違いない。数年前、ポロの試合を観に行く際に運転したアストンマーティンは、思いがけずエキサイティングなクルマだった。それはサスペンションのセッティングにこだわり、軽いパワステは邪道だと考えているような、本当のエンスージアストのためのクルマだった。その怪物マシーンと格闘するのは、素晴らしい体験だった。乗り終えた時、私は良質のワークアウトをした後のような気分になった。

 

 幸運なことに、現在のアストンマーティンは、こういったドライビングが大好きなファンたちに支えられている。デザイン・ディレクターのマレク・ライヒマンは、ジェレミーにアプローチし、プロジェクトについての快諾を得た。

 

 

1 2 3 4 5