HOTEL THE MITSUI KYOTO

「三井」の名を冠した、フラッグシップホテル訪問記

March 2022

 

 

 

 私が案内されたのは、二条城を眼前に望むニジョウルームだった。客室の意匠は奇を衒わず、落ち着いたトーンにまとめられている。いわゆる「和モダン」の範疇に入るのだろうが、よほど吟味した材料が使われているのだろう、ワンランク上の質を感じさせる。室内には、陶製のレリーフなど、そこかしこにアート作品が飾られており、空間に凛とした気品を与えている。

 

 オープンしたばかりだから当たり前かもしれないが、すべての設備が真新しく機能的で気持ちがいい。シャワーのお湯もじゃんじゃん出るし、空調、アンビエントライト、オートシェードなどもサクサク動く。アメニティ類はすべてオリジナル・ブランドだ。

 

 

 

 

 特筆すべきは、ミニバーの充実ぶりで、国内外の銘醸がずらりと揃う。バーに行くのは億劫だし(ここにはTHE GARDEN BARという素敵なバーがあるが)、ルームサービスを頼むのもなんだか遠慮してしまうという私のような人間には幸甚である。ちなみにホテルにおけるミニバーというのは、一時は絶滅の危機に瀕していたが、最近また拡大傾向にあるようだ。何よりのことである。

 

 

 

 

 アートは、客室のみならず、館内のいたるところに飾られている。ライブラリーには藤原志保氏の墨と和紙による作品、廊下のアイストップには栗本夏樹氏の漆と螺鈿による『宙(SORA)』、ラウンジ横には前述梶井宮門の棟札(建物の由来を記し内部に収めるもの)など、このホテルは、ちょっとしたミュージアムのようだ。これらをアンバサダーと巡る無料のアートツアーも催行されている。

 

 

 

 

 エクスペリエンス型のプログラムが多く用意されているのも、ここの特徴だ。私が体験させてもらったのは抹茶。ロビーから仕切られた茶居には本格的な茶道具が揃えられており、武者小路千家の手ほどきを受けたスタッフが、お手前を披露してくれた。椅子席ということもあり、外国人客には特に好評だそうだ。

 

 

 

 

 夕食は、メインダイニングのイノベーティブ「都季(TOKI)」にて。ここはフランス料理と日本料理双方の食材と調理法を融合し、突き詰めたスタイルだそうだ。シェフの浅野哲也氏は、フランスの名門「リッツ パリ」(天皇の料理番、秋山徳蔵氏が修業したところ)のメインダイニング統括副料理長まで務め上げた人物。料理は、いずれも素材の味を最大限生かしつつ、絶妙なソースを合わせたもの。皿の上でそれぞれが、完璧なハーモニーを奏でている。

 

 

 

 

「自分は決して天才型の料理人ではありません。リッツ時代は味見ばかりしていました。今夜の料理も何度も試行錯誤して、ようやく味を決めたものです。しかし、そうやって料理を追求していくのが、面白くてたまらない。夜、厨房であれこれやっていると、あっという間に時間が経ってしまいます」と浅野シェフ。こういう人の作る料理が、うまくないわけがない。

 

 ペアリングされたワインも秀逸で、フランス産のほかに、京都産の日本酒やワインもサーブされた。このレストランは、ここを目的として旅程を組むに値する存在だと思う。

 

 

 

 

 さてこの後は、当ホテル最大のお楽しみが待っている。それは温泉である。京都市内中心部に位置するにもかかわらず、敷地内地下約1000mより天然温泉が湧き出しているのだ。京都二条温泉という源泉名もついており、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥などに効くという。それを楽しむ方法はいくつかある。

 

 まずはサーマルスプリングである。これは水着を着用して入る男女共用の温浴施設で、その広さは1000平米ほどもあり、まるで岩盤に囲まれた巨大な地下空間にいるような錯覚を覚える。広々とした温泉プール、ジャグジーなどが備えられた異世界で、思い切り手足を伸ばすことができる。都市部のラグジュアリーホテルで、これだけの設備を持っているところは他にない。

 

 

 

 

 それから貸し切りのプライベート温泉である。いわゆる家族風呂なのだが、その言葉がイメージするものとは相当に違う。100平米超の空間に、ゆったりとした湯槽、ミストサウナ、パウダールームウエット&ドライリビングなどが配されている。テレビを見ることもできるし、ブルートゥース経由で好きな音楽をかけることもできる。ルームサービスをオーダーして、飲食を楽しむことも可能だ。

 

 さらには、Onsenスイートである。地下温泉施設の最奥に位置する特別室で、完璧なプライバシーが保証されている。上記のプライベート温泉にスイートルームを足したものだと考えていい。このルームタイプは開業以来大人気で、数ヶ月先まで予約で埋まっているという。セレブリティの利用も多いそうだ。

 

 

 

 

 朝食は、もうひとつのレストランFORNI(フォルニ)で。ブッフェではなく、好きなものをオーダーして頂くタイプだ。洋食から和朝食まで、幅広いチョイスが可能である。中庭に面した席で木々を眺めながら食べるアメリカンブレックファストは最高だった。FORNIとはイタリア語で複数の窯を意味するという。その名の通り、店中央には、ピザ用とグリル用の2種類の窯が設えてある。次回は同店自慢のローマ風ピザ(ナポリ風に比べパリッとしている)を食べに来よう。

 

 

 

 

 滞在中感じたのは、ここで働く人々の心遣いのきめ細やかさだ。各スタッフはよく気が利くし、廊下ですれ違うときは深々とお辞儀をしてくれる(つられてこちらも頭を下げてしまう)。しかし、決して慇懃無礼とはならず、本心からの温かさを感じる。これは京都ならではのホスピタリティか、それとも「人の三井」の成せる技か。

 

 三井不動産は年間売上が2兆円を超える巨大コングロマリットである。HOTEL THE MITSUI KYOTOは、そのフラッグシップホテルという位置づけだ。それだけに、三井の名に恥じぬよう、あらゆる点において最高を求められている。そしてデザイン、クオリティ、サービス――すべての面で、その期待に完璧に応えているのが、このホテルのすごいところだ。

 

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