WEAVING STRAW INTO GOLD

フォックス ブラザーズこそ、一生モノである

December 2019

原料を贅沢な生地に変え、ビスポークの夢を現実とする。彼らの仕事がもたらすのは、
代々伝わる金ぴかの装身具にも負けない、家宝となる服である……。
text tom chamberlin
photography kim lang

使われた生地はフォックス ブラザーズが誇るサマセットジャケッティングのコレクションだ。一見ツイードのようだが、その手触りは贅沢で柔らかい。今回は大柄なウインドウ・ペーンに挑戦した。

 ビスポークは一度はまるとやめられない習慣だが、完成品への期待度がどのくらい変動するかは、依頼者とテーラーの信頼の度合いによって決まる。信頼がなければ、依頼者はその過程で神経を大いにすり減らすことになる。時間を無駄にし、お金を浪費したかもしれないと後悔するからだ。

 まずどこの誰に依頼すべきかを決めるのは、大きな難関となるはずだ。さまざまなハウスがよりどりみどりのスタイルを提供しているうえ、各ハウスにはそれぞれのカッターに対応した小宇宙が存在する。このようにあまたの選択肢がある状態で、100パーセント自信が持てるひとつの解答にたどり着くのはほぼ不可能だ。さらに、いくら最高のカッターでも、初対面で依頼者の心を読み、常に少しずつ変化する体の隅から隅まで把握するのは無理というものである。

 一部のテーラーリング入門には、こういった好みならこのテーラーがお薦めですと書かれているが、実際にはそれほど単純だった試しがない。だが多くの人は、自分が夢見る理想の服を具現化してくれる、頼もしいカッターへの近道を求めている。

 そんな近道のひとつが、ケント・ヘイスト&ラクターのテリー・ヘイスト氏である。彼はニック・フォルクス氏、リッチモンド公爵など、世界の錚々たるベストドレッサーたちの御用達カッターだ。テリー氏の非凡な才能に親しんでいたことは幸運だった。なぜなら私たちは最近、現在の英国の生地製造業界でおそらく最も重要(本人は謙遜しているが)な人物に出会ったからだ。フォックス ブラザーズ社のダグラス・コルドー氏である。

 眉目秀麗で口調が柔らかく親切なダグラス氏は、自社ブランドにとって素晴らしいアンバサダーだ。彼は控えめな人柄だが、世界でも指折りの贅沢な生地を管理している男だ。その生地は、着用者を平静と落ち着きに満ちた境地へと導いてくれる。これこそ、ラルフ・ウォルドー・エマソンが「身なりが完璧に整っている」と名付けた状態である。

 グリム童話『ルンペルシュティルツヒェン』に登場する娘は麦わらから金糸を紡ぎ出したが、フォックス ブラザーズも同様だ。羊から原毛を手に入れ、洗毛し、糸に紡ぎ、織り上げるという昔ながらの工程を経て、珠玉の生地を誕生させるのだから。その生地を衣服に仕立てれば、どんな宝飾品にも、代々伝わる金ぴかの装身具にも負けない、大切にすべき家宝のような品になる。

フィッティングルームで最初のフィッティングを行うトム・チェンバリンとテリー・ヘイスト氏。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 29
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