December 2020

TOUR DE TIME

旅時計の先駆者
―パテック フィリップ―

text tetsuo shinoda
photography jun udagawa

時代を切り拓いたワールドタイムの名作(左)初めて製品化された「ワールドタイム」ウォッチは、1937年の「Ref.515 HU」。優美なトノー型ケースを使用し、28都市の名が書かれている。
(右)ダイヤルの中央にクロワゾネの世界地図を描いた「Ref.2523-1 HU」は1955年にデビュー。世界中を旅するロマンティックな時計であることがわかる。

 しかしカナダやアメリカのような広大な国土の場合、標準時がひとつしかないと不便だ。そこで世界共通の標準時を定め、さらに15度ごとに1時間の標準時を割り振っていくことを考案したのが、カナダの土木技師サンフォード・フレミングだった。このアイデアは1884年の国際子午線会議で採択される。時差が生まれたのはこのときである。

 時差の影響は、鉄道から飛行機へと交通手段が移行し、旅の範囲が広がるほど大きくなる。そして飛行機時代が到来した1930年代に、ついに画期的な旅時計がパテック フィリップから生まれる。

 時計師ルイ・コティエが考案した「ワールドタイム」機構は、24時間リングと各タイムゾーンの代表都市が書かれたディスクを組み合わせて世界中の時刻を同時に表示する。この時計は1960年代まで作られたが、どれも希少性が高く、今でもヴィンテージウォッチのオークションでは、超高額で落札されている。

 そして現在は、2000年に開発された新たな24タイムゾーン機構を使用している。これは10時位置のプッシュボタンを押すと、24時間リングと都市ディスク、時針が1時間ジャンプする仕組みだ。時差修正は自分がいるエリアを12時位置に合わせるだけ。たったそれだけで、世界中の時刻を手中に収めることができるのだ。

(左)希少性が高い「ワールドタイム」は、ヴィンテージウォッチのオークションにて高額で落札されることが多い。この1939年発表の「Ref.1415 HU」は、41都市を回転ベゼルに彫り込んだモデルで、ケースやベゼルはプラチナ製。
(右)クロノグラフと組み合わせた「Ref.1415-1 HU」は1940年製。太陽型の時針も特徴。24時間リングの外周には脈拍を計るパルスメーターを搭載。一本のみ製作されたユニークピースである。※時計はすべて、パテック フィリップ・ミュージアム所蔵。

本記事は2020年11月25日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 37

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