TOUR DE TIME

旅時計の先駆者
―パテック フィリップ―

December 2020

名門パテック フィリップは、時差修正機能が付いた時計=「旅時計」の先駆者でもある。
その歴史に焦点を当てつつ、「トラベルタイム」「ワールドタイム」のふたつの機構を紹介したい。
text tetsuo shinoda
photography jun udagawa

カラトラバ・パイロット・トラベルタイム 7234 <2020 New Model>今年の新作として、ケース径37.5mmの小ぶりサイズにホワイトゴールドケースモデルが登場。シックなブルーのダイヤル&ストラップは程よくスポーティ。ホームタイムとローカルタイムに対応したふたつのナイト&デイ表示はコンパクトにまとめられているので、視認性を邪魔しない。ケースの厚みも10.78mmに抑えているため、シャツの袖に干渉しにくい。自動巻き、18KWGケース、37.5mm。¥5,070,000 Patek Philippe(パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター TEL.03-3255-8109)

 人間はいつから旅をするようになったのだろうか? 我々の祖先は、よりよい生活環境や食料を求めて、移動してきた。遊牧民のような暮らしをし、理想の場所が見つかればそこに定住した。温暖な平地や水辺に人が集まり集落ができると、やがて社会が形成された。そして自分が暮らす社会から離れて見知らぬエリアの人々と交流するようになった。これが、“旅”の始まりである。

 とはいえ、人類史における旅のほとんどは、宗教上の聖地への巡礼だった。日本ならお遍路やお伊勢参りなどがそれにあたる。近代的な旅が始まったのは17世紀頃で、イギリスの裕福な貴族の子弟が見聞を広めるために、家庭教師を伴ってヨーロッパ大陸などを旅する「グランドツアー」が行われた。しかし旅時計が誕生するのはまだ先のこと。というのも、この時代の時計は「神に祈りをささげる時」を知らせるためのもので、教会の鐘が聞こえる範囲内でしか通用しないローカルなものだったのだ。

 旅時計が登場するのは、時差という概念が生まれてからである。そのきっかけとなったのは鉄道網の発達だ。街から街へと移動する鉄道を安全に運行するためには、街ごとに異なっている時間のローカルルールを統一する必要がある。すなわち標準時だ。イギリスのようなさほど大きくない国土なら、グリニッジ天文台の時計に合わせるなど、標準時を定めやすい。

(左)カラトラバ・パイロット・トラベルタイム 5524パテック フィリップのトラベルタイム機構は機能的で評判が良く、他のさまざまなコレクションにも採用されている。このモデルは下に掲載している1936年製のパイロットウォッチのデザインからインスピレーションを受けており、アラビア数字インデックスや大きな針でスポーティさを演出。腕元で主張する時計である。自動巻き、18KRGケース、42mm。¥5,620,000 Patek Philippe(パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター TEL.03-3255-8109)

(右)カラトラバ・パイロット・トラベルタイム 723437.5mmサイズのモデルは、女性の腕にも収まりの良いユニセックスタイプ。10時位置と8時位置にある大きなプッシュボタンを使ってセンターの通常の時針をジャンプさせ、現地時間に合わせるだけというシンプルな機構なので、誰でも簡単に時差修正ができる。ブラウン・ソレイユのダイヤルは、光の当たる角度によって色の濃淡を美しく変化させる。自動巻き、18KRGケース、37.5mm。¥5,070,000 Patek Philippe(パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター TEL.03-3255-8109)

2015年にデビューしたパテック フィリップのパイロットウォッチだが、そのデザインは、ジュネーブにある「パテックフィリップ・ミュージアム」に所蔵されている1936年製のパイロットウォッチ「No.170 383」からインスピレーションを受けたもの。機能的なデザインは今に通じるものがある。

本記事は2020年11月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 37

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