THE NEW MASTERS
藤田雄宏が勧めるビスポーク職人 03
石津 健太
May 2022
新たに足された自分らしさ
SARTORIA ICOA
仕事と向き合うときの石津健太氏の目はマエストロそのものだ。“ICOA”の“I”はItalia(イタリア)とIdentità(アイデンティティ)、“C”はCultura(文化)とClassico(クラシック)、“O”はOriginale(本物の)、“A”はArtigianale(職人の、手仕事の)を意味する。それらを感じさせる服を作りたいという、氏の思いを込めた造語だ。
サルトリア イコアをスタートさせてから2年半が経過し、石津健太氏の魅力がいよいよ爆発した。凄くいい。
ナポリのヌンツィオ・ピロッツィのもとでの修業を終えて日本に帰国した2010年に会った25歳の石津氏はまだあどけなく、でも服はナポリそのものだった。その後、平林洋服店に入って手縫いのテーラーとして活躍し、独立したのは2019年。技術に磨きがかかって仕事は美しく成長したいっぽうで、それまで自分を100%表現することがなかった石津氏は、独立当時、こんなことを言っていた。
「カッティングや雰囲気を含めてヌンツィオ・ピロッツィが仕立てる服の美しさには圧倒され続けてきました。ヌンツィオには、服は近くで見るな、離れて見ろ、と口酸っぱく言われたものです。彼らがいう美しさは日本人とは違うベクトルで、もっと大局的な見方をしているんですよね。いつの間にか自分は日本人の目線で服を仕立てていたので、これからはそこを改めて大切にしていきたいですね」
左:ポーター&ハーディングのスコティッシュツイードで仕立てられたジャケット。ダイナミックさが出ていて、これぞ石津氏の個性だ。ちなみに客のリクエストによって、自身の美意識の範囲内でデザインは多少変えるという。石津氏はナポリらしいダブルステッチも好きなので、ジャケット単品の場合はそういうのもオススメしているとのこと。右:フォックス ブラザーズのフランネルで仕立てられた製作中のスーツ。肩が抜群に美しく、ラペルの表情がとてもいい。
あれから2年半が経ったイコアの服は、なんと生き生きとしていることか。ヌンツィオの言葉を肝に銘じるいっぽうで、やっていく中で自分らしさを表現することを強く意識するようになってきたという。ダイナミックだ。透き通った洗練がある。ナポリでは決して生まれ得ない、ナポリで修業してきた石津健太の目線で仕立てられた、彼の美意識が詰まった服だ。
「お客様と接する中で、お客様に育ててもらっているのを強く感じています。それが自分でも気がつかないうちに、服にも表れてきているんでしょうね」
左:太陽光が差し込む、明るくて非常に居心地がいい工房。ひとりで作業している。右:ナポリを離れるときに職人に作ってもらったナポリの道化師「プルチネッラ」。長らく飾る機会がなかったが、独立して自身の工房を構えたことで、ようやく飾ることができた。
師匠はヌンツィオ・ピロッツィ石津氏がパニコ、ルビナッチ、フォルモーサ、ピロッツィを当たって弟子入りを志願した際、唯一受け入れてくれたのがピロッツィだった。生地を広げて数分後にはチャコで線を引いて裁断し終わっているヌンツィオ・ピロッツィ氏の超絶な速さの仕事ぶりに、ただただ驚かされたという。今年で83歳を迎えるが、今なお現役で、ナポリでも最高齢のサルトのひとりとなった。
Kenta Ishizu / 石津 健太1985年、東京都生まれ。2007年に渡伊。ミラノのサルトリアで1年修業したのち、ナポリのヌンツィオ・ピロッツィで修業。2010年に帰国し、2011年から平林洋服店のサルトとして活躍。2019年5月、サルトリア イコアをオープン。
東京都中央区新川1-11-10 明祥ビル2-B号室
TEL.080-2588-8214(予約制)
www.sartoriaicoa.jp
スーツ¥385,000〜、ジャケット¥286,000〜、トラウザーズ¥99,000〜。納期は約8カ月〜。
本記事は2022年1月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。
THE RAKE JAPAN EDITION issue 44