THE NEW MASTERS
藤田雄宏が勧めるビスポーク職人 01
平野 史也
May 2022
FUMIYA HIRANO BESPOKE
8年間住んだロンドンから帰国した平野史也氏が2020年11月に西麻布に開いたアトリエの扉を開けると、オアシスの“Who feels love?”が流れていた。思わずツッコミを入れると「テーラーでジャズだといかにもじゃないですか(笑)」といたずらっぽくおどけて見せた。
僕にはあのウェットなサウンドが、平野氏自身がもつ雰囲気、フミヤ ヒラノ ビスポークの服に、とてもしっくりきた。イギリスの薫りに満ちながら、伝統的なサヴィル・ロウ テーラーの服にはない複雑な色気を宿した氏の服と、オアシスのウェットサウンドが妙に重なり合ったのだ。
ヴィンテージのサージウールで仕立てられスーツ。凜とした佇まいで、なんと洒落ているのだろう。イギリスで作ったイギリス服よりいいものを作りたいと平野氏は話すが、これは格別の美しさだ。
初めて会ったのは平野氏がテーラーとして見習い修業を始めた2007年。国内の2テーラーで経験を積んで2012年に渡英し、名門ヘンリー・プールの門を叩いた。その後ロンドンに自身の工房を構えて独立。少年のようにあどけなかった平野氏が、3年前にロンドンで会ったときには、若さの中にも世界中を相手に勝負している立派な男の顔になっていた。
ヘンリー・プールの型紙がベースにありながら、そしてすべてのパーツをイギリスから取り寄せながらも、平野氏の服はいい意味で別ものだ。襟がきれいにのぼっている平野氏の服のほうが日本人には明らかにきれいにはまるし、薄くて張りのある芯地使いも日本の気候に合っていると同時にソフトな着心地を生む。
エドウィン・ウッドハウスのヴィンテージの6プライで仕立てられたスーツ。ウエストのシェイプ位置が高く、とてもグラマラスだ。
体が大きく鳩胸のイギリス人とは異なる日本人の体形に合わせ、後ろ身頃の分量を多くした型紙もまた然りだ。柄合わせ、地の目通し、クセ取りはもちろん、美しい縫製に関しては言わずもがな。さまざまなアップデートを施しながらも全体を美しくまとめあげる卓越したセンスは見事のひとことだ。平野氏の服をここ東京でいつでもオーダーできるなんて、嬉しすぎるじゃないか。
大変広々として雰囲気のあるアトリエ。
ヘンリー・プールでの修業時代に撮られた貴重な1枚ヘンリー・プールでの修業時代に撮られた1枚。左から3番目が平野氏だ。実力を身につけた平野氏は独立後、ロンドンでも本当にさまざまな国籍の顧客を抱えるようになった。平野氏のマスターだった左から4番目のクレイグ・フェザーストーン氏とは、今も連絡を取り合っている。彼もまたヘンリー・プールから独立し、ロンドン市内で自身のテーラー「Featherstone London」を営んでいる。
Fumiya Hirano / 平野 史也1985年、名古屋生まれ。国内テーラーで修業を積み、2012年に渡英。2013年1月よりヘンリー・プールにテーラーとして入社。2015年にロンドンで独立し、フミヤ ヒラノビスポークを始動。2020年に帰国し、西麻布にアトリエをオープン。
FUMIYA HIRANO BESPOKE東京都港区西麻布2-23-8 南雲ビル1F
TEL.03-6712-6625(アポイント制)
www.fumiyahirano.com
スーツ¥495,000~、ジャケット¥368,500~。納期は約1年~。
本記事は2022年1月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。
THE RAKE JAPAN EDITION issue 44