THE NEW MASTERS
藤田雄宏が勧めるビスポーク職人 04
里和 慶一
May 2022
ハンツマン仕込みの軽やかさ
ARCHIES BESPOKE
意外性に満ちあふれている。サヴィル・ロウのハンツマン仕込みと聞いて想像する男性像からは、里和慶一氏はいい意味でかけ離れている。スラッシュメタル好きで、手縫い中はスレイヤーを聴くこともあるという。イギリスの伝統的な文化はもちろん好きだが、ストリートカルチャーへの関心も強い。リビングには高校生からはまっているロードレーサー、コルナゴの「C40」が立てかけられていて、奥様とのロングライドが趣味だという。王室のウェディング衣装を二度も手がけ、映画『キングスマン:ファースト・エージェント』の衣装を20着以上仕立てた人物というイメージとのギャップ、すなわち親しみやすさが里和氏の大きな魅力だ。
シューティングジャケット的なこちらは、ベローズポケット仕様。カシミア100%のドニゴールツイードで仕立てられているハードなデザインにソフトな生地を組み合わせるという意外性を提案してくるあたりが、里和氏らしくていい。日本ではあまり見かけないデザインなのでとても人気があり、最近も女性に納品したばかりだという。「地元のレストランに出かける際に、私が仕立てた服をサッと羽織る感じの使い方をしていただけたら、嬉しいですね」
昨年、ロンドンから帰国。自宅の2階を工房にし、アーチーズ ビスポークをスタートさせた。背筋を正して着る服より、道具としてガンガン着られる服を好む。
「ハンツマン時代はテーラーでありながらお客様のフィッティングにもよく同席させてもらっていました。素敵な生活に寄り添った趣味の服を作られる方がたくさんいらっしゃったのが印象的でした。時代もあるのでしょうが、アーチーズのご注文の9割はジャケットです。ハンツマンのときと同じように日本でもお客様と一緒にカジュアルにも楽しめる服を仕立てられることが、とても嬉しいですね」
左:サヴィル・ロウの中では肩パッドがとても薄く、ボディも大変柔らかいハンツマンの仕立てとカットをベースにしながら、より柔らかな印象に仕上げるべく、フラップの角を丸くし、フロントカットを大きめにアレンジ。里和氏自身がしているように、ジャケットの単品使いもオススメしている。右:ドメスティックブランドのKavalとの協業による、ヴィンテージのフランスの麻の寝袋を解体した生地を用い、1世紀前の製図書をもとに里和氏が仕立てたサックコート。さまざまなクオリティの糸が乱雑に混じって織られており、迫力満点。
そんな里和氏の服は、サヴィル・ロウでトップクラスの柔らかさを誇るハンツマンの服よりも、さらに柔らかな印象だ。そして、色気がある。仕立て自体もより軽やかで、都会的でクリアな生地を提案しているのもあるだろう。普段はジャケット&ジーンズ姿を好み、スーツで仕立てた上着を羽織っていることが多いという。そんな使い方ができる、新しいサヴィル・ロウ仕込みの服、素敵じゃないか。
自宅の2階に工房とフィッティングルームを設けており、裁断も縫製もひとりで手がけている。サヴィル・ロウで見られるようなベースパターンはもたず、ひとりひとりに対して0から型紙を起こすので、ファーストフィッティングの精度を高めるべく細かく採寸する。バックネックからアームホールの前の付け根までの長さや、メジャーをタスキ状に掛けてアームホールの深さを測るあたりがユニークだ。
色っぽさのある都会的な生地を
好むあたりも新しい!素朴でありながら着たときにちょっぴり色気が出る、クリアな表面感の都会的な生地を好む。色は断然ブラウン系で、お気に入りは下記三つ。左:高級生地だと、繊維のクオリティの高さがとてもわかりやすい「エスコリアル」が好きだという。伸縮性もあり、耐久性が高いのも魅力。中央:フランネルは梳毛系、特にハリソンズの「ウーステッド フランネル」が好き。右:ポーター&ハーディングの「グレンロイヤル」。ツイードにしては表面がクリアで、糸は太いけれどもガシガシに織られていないところがお気に入り。
Keiichi Satowa / 里和 慶一1987年、東京都生まれ。銀座の英國屋で7年半テーラーとカッターの修業を積み、2016年に渡英。3年在籍したハンツマンでは、ロイヤルウェディングや映画衣装も担当。2021年に帰国し、「アーチーズ ビスポーク」をスタート。
ARCHIES BESPOKE今年中に新たに工房を構える予定だが、現在は杉並区の自宅を工房にしている。
archiesbespoke.com
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