THE MAN WITH THE HORN : MILES DAVIS

ホーンを持つ男:マイルス・デイヴィス

June 2022

text ben st george

ロンドン、ハマースミス・オデオンにおけるライブパフォーマンスの様子(1967年)。

 デイヴィスのキャリアは、まさに“発明”の連続だ。1940年代後半から50年代に“クール・ジャズ”を生み出し、60年代後半から70年代にかけては『イン・ア・サイレント・ウェイ』や『ビッチェズ・ブリュー』(ともに1969年)、80年代には『Tutu』(1986年)などのアルバムを発表し、常に音楽界を引っくり返してきた。ジャズから始まり、フュージョン、ファンク、エレクトリック、ヒップホップまで、常に時代の先端にいた。

 1969年、『イン・ア・サイレント・ウェイ』がリリースされて間もない頃、デイヴィスがニューヨークの自宅マンションのパティオでくつろいでいると、ある老人が彼に声をかけた。

「マイルス・デイヴィスさん、あんたの音楽は大好きなんだが、今やっている新しいやつは好きじゃないんだ」

 デイヴィスは彼に向かって、こう言った。

「じゃあ、あんたが追いつくのを待っていろっていうのか? このクソ野郎」

 デイヴィスは、そのユニークで変幻自在なファッションでも知られている。それは音楽と同様に、彼の重要な一部だった。1980年にデイヴィスのバンドに参加していたベーシスト、作曲家、プロデューサーのマーカス・ミラーは言う。

「彼の服裝は、他のすべてと同じく、彼自身を如実に反映していた。自分が誰であるかを示すものだった。彼は人に見られていることを常に意識していた。特に1940年代や50年代は、黒人アーティストが、単なるエンターテイナー以上の存在として認められるために闘っていた時代だ。服装はとても重要だった。『できるだけシャープな格好をして、尊敬を集めよう』という感じだった」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 44
1 2 3 4

Contents