THE FINEST WATCHES OF 2024
THE RAKEが選んだ2024年の注目時計、ベスト9
May 2025

IWC
ポルトギーゼ・エターナル・カレンダーパーペチュアル・カレンダーモデルのケース厚15mmをキープしつつ、400年の間で例外とされる3回の閏年をスキップする“400年歯車”を搭載。西暦4000年が閏年となるかはまだ正式に決まっていないため、3999年までは正確に閏年が計算されることになる。4500万年に1度の調整で済む超高精度ダブルムーンフェイズは、ギネス世界記録を更新。サファイアクリスタル素材を多用したルックスも魅力的だ。自動巻き、Ptケース、44.4mm。価格は要問い合わせ。IWC(IWC Tel.0120-05-1868)
THE RAKE編集部から2024年のベストウォッチをまとめてほしいと依頼され、私は興奮と恐怖が入り混じった気持ちで選定に臨んだ。まるで学生時代、試験結果を受け取るときのような緊張感があった。というのも、市場はパンデミック以降数年続いた異常なまでの熱狂を経て、ようやく適正価格に戻りつつあるにもかかわらず、時計業界は相変わらず活況を呈していたからだ。マイクロブランドの台頭、ユニークなシェイプのケースの流行、そしてブルガリ、ピアジェ、コンスタンチン・チャイキンによる世界最薄をめぐる熾烈な争いなど、これまでの限界が次々と打ち破られた一年だった。
IWC まずは、Watches & Wondersのブースで素粒子物理学者ブライアン・コックス教授が発表したIWCの「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」である。シャフハウゼンを拠点とするマニュファクチュール、IWCが得意とするパーペチュアル・カレンダーと見た目は似ているが、まったく異なる次元の時計だ。ケースと風防はゼロから設計され、複雑な製造工程を経たガラスの文字盤とダブルボックスガラスにより独創的な美しさを作り上げた。IWC初のこのセキュラー・パーペチュアルカレンダーは、グレゴリオ暦の閏年の例外規定を自動的に考慮し、400年の間に3回の閏年をスキップする。また、4,500万年に1日という誤差の驚異的な精度を誇るムーンフェイズ表示も備えている。新たな境地を切り拓いた1本だ。
ローラン・フェリエ ローラン・フェリエは、世界で最もエレガントな独立系時計メゾンのひとつである。年間生産本数はわずか450本程度と小規模だが、注目に値する間違いないブランドだ。2024年は、同社初のアニュアルカレンダー&ムーンフェイズを搭載した「クラシック・ムーン」を発表した。ブランドのシグネチャーともいえる、丸くなった小石のような曲線を描くクラシックなケースデザインで、文字盤には細身のアセガイ型の時針と分針と、ムーンフェイズを備える。ムーンディスクは、職人がアベンチュリンガラスを月と星の形に彫り上げた後、手作業でホワイトのペイントを施したもので、重ねられた半透明のペトロールブルー エナメルがステンドグラスのような効果を出している。夜空を背景に美しく輝くその姿は圧巻だ。ムーブメントは手巻きのキャリバーLF126.02。手作業によって、ブリッジのポリッシュ仕上げ、コート・ド・ジュネーブ装飾、面取りが施されている。静かに品格を語る、極上の1本だ。

LAURENT FERRIER
クラシック・ムーン自社開発のアニュアルカレンダーとムーンフェイズを搭載。12時位置の左が曜日、右が月表示。ポインターデイト針で外周の日付を示す。北半球と南半球のふたつの月の満ち欠けを示すムーンフェイズ機構は、アベンチュリンガラスに半透明のエナメルを合わせ、神秘的な美しさを表現している。手巻き、SSケース、40mm。¥13,090,000 Laurent Ferrier(スイスプライムブランズ Tel.03-6226-4650)

HERMÈS
エルメス カット36mmというユニセックスなケースサイズ。メタルブレスレットのほか、全8色のラバーストラップも展開。道具不要で簡単に交換できるため、パートナーとシェアしたり着用のシーンで使い分けたりと楽しめる。写真は、ベゼルにダイヤモンドをセットしたケースとホワイトラバーストラップを組み合わせたモデル。自動巻き、SSケース、36mm。¥1,826,000 Hermès(エルメスジャポン Tel.03-3569-3300)©Joël Von Allmen
エルメス 次にエルメスの新コレクション「エルメス カット」を挙げたい。「ファッションブランドの時計」とか、「レディース向け」と言う人もいるかもしれないが、残念ながらどちらも間違いだ。我々メディア関係者もWatches & Wondersで初めて目にしたが、誰も予想していなかった新作にもかかわらず全員が魅了されてしまった。エルメスを時計ブランドとしてまず最初に思い浮かべる人は少ないかもしれないが、実は彼らは大きな成功を静かに積み重ねてきたのだ。このモデルはまさに、スポーティ・シックの極みといえる。36mmのユニセックスモデルで、ステンレススティールまたはスティール&ゴールドのケース。それぞれベゼルにダイヤモンドをセットしたモデルがあり、計4種類。さらにメタルブレスレットのほか、交換可能なラバーストラップが全8色展開されている。ケースをよく見ると、デザイナーの手腕が光っている。ベゼルはラウンド形で、ブラッシュ仕上げにより形状が強調されているが、ミドルケースはトノー型に近く、角を丸めることで直線的であることを感じさせない。さらに特徴的なのがリュウズで、1時半の位置に埋め込まれるように配されている。これは丸みを帯びた美しいケースのシルエットを維持するための意図的な判断に違いない。ムーブメントはヴォーシェ・マニュファクチュール・フルーリエ製のキャリバーH1912(「アルソー」や「カレ H」にも採用されている)を搭載している。断言しよう、この時計は将来名作として語られるだろう!
ジェブデ・レジェピ 名門ブランドで修業を積んできたジェブデ・レジェピ氏が、初めて手がけた特別な作品が、「ミニット イネルテ」。この時計は、モダンな時計作りとクラシックな美観を見事に融合させた1本だ。極めてシンプルながら、見ているとやみつきになるような魅力的な機構が備わっている。秒針はサブダイヤルを58秒で一周した後、上部で2秒間停止する。そしてちょうど1分経過となると、分針が瞬時に次の分へとジャンプし、再び秒針が動き始めるのだ。2023年はパステルブルーの文字盤を発表したが、2024年は新たにパステルグリーン文字盤が登場した。単なる文字盤カラー違いと思うかもしれないが、これは大いに注目すべき逸品である。技術革新、最高級の仕上げ、そして38mmという理想的なサイズをすべて兼ね備えている。この男から目を離さないでほしい。彼は間違いなく、今後の時計界を担うスターとなる。

XHEVDET REXHEPI
ミニット・イネルテジェブデ・レジェピ氏によるファーストモデルで、左のグリーンダイヤルが2024年発表。クラシカルなサイズ感だが、その動きはかなり斬新。秒針が58秒で一周し、頂点で2秒間停止。次の瞬間に分針がジャンプし、再び秒針が動き出す仕組み。兄のレジェップ・レジェピ氏も独立時計師として活躍中。手巻き、Ptケース、38mm。Xhevdet Rexhepi

BERNERON
ミラージュシルヴァン・ベルネロン氏による新ブランドのファーストモデル。ケースと針はもちろん、ムーブメントも変形という刺激的なスタイル。地板もブリッジも、ムーブメント会社と共同開発しており、パワーリザーブは72時間。左が18Kイエローゴールドの“シエナ”、右が18Kホワイトゴールドの“プルシアンブルー”。ともに手巻き、38mm。Berneron
ベルネロン IWCやブライトリングで活躍してきた紳士によって設立されたブランド、ベルネロンの最初のモデル「ミラージュ」は、2024年を代表する時計といえるかもしれない。クリエイティブなデザイン、技術革新、そして現在時計業界に溢れている独立精神、これらすべてを具現化しているのだ。その左右非対称のデザインは、外見上の偶然ではなく、ムーブメントの構造に由来している。キャリバーの特徴的な構成要素であるオーバーサイズの香箱、ダイレクトドライブのスモールセコンド、ヴィンテージ懐中時計スタイルのバランスホイールが、この型破りなシルエットを決定づけている。従来のフォルムを超えたアシンメトリーデザインは、目を引く個性を放ちながらも、腕に着けたときには洗練された存在感を醸し出す。仰々しい自己主張ではなく、静かな自信を表現した時計となっている。
ヴァシュロン・コンスタンタン 2024年は、ヴァシュロン・コンスタンタンの代表的なドレスウォッチ「パトリモニー」の20周年を迎えた年であった。ヴァシュロン・コンスタンタンは昨今のトレンドに沿って、「パトリモニー・マニュアルワインディング」のケース径を40mmから39mmに縮小し、18Kホワイトゴールドケースと18Kピンクゴールドのふたつのバージョンを発表した。特徴的なアンティークシルバーのダイヤルは新色で、細い針、インデックスのピンクゴールド、そして48個のパール状のミニッツトラックを備える。ムーブメントは、厚さ2.6mmの超薄型手巻きキャリバー1440で、振動数は4Hz、パワーリザーブは42時間を誇る。アジュールブルーとオリーブグリーンのストラップが、新鮮な色合いを加え、いいアクセントとなっている。ドレスウォッチは誰にでも必要である。「パトリモニー」は、特に注目に値する。

VACHERON CONSTANTIN
パトリモニー・マニュアルワインディングシンプルを極めた2針モデルが39mmにサイズダウン。よりエレガントな雰囲気が増した。ドーム状のダイヤルは、新色のアンティークシルバーカラーを採用。18Kピンクゴールドモデルはアジュールブルーのアリゲーターレザーストラップを合わせた。ムーブメントは自社製キャリバー1440を搭載。手巻き、18KPGケース、39mm。¥3,740,000 Vacheron Constantin(ヴァシュロン・コンスタンタン Tel.0120-63-1755)

AUDEMARS PIGUET
CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック2023年のステンレススティールモデルに導入された新デザインを踏襲した18Kピンクゴールドモデル。この38mmの3針モデルは、「ロイヤル オーク」の初代に使われた「ナイトブルー、クラウド50」カラーをダイヤルに採用。よりドレッシーな印象に仕上げた。ムーブメントは、3.9mmの薄さで振動数4Hz、約60時間のパワーリザーブを誇るキャリバー5900を搭載。自動巻き、18KPGケース、38mm。¥4,950,000 Audemars Piguet(オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000)
オーデマ ピゲ 2024年は「CODE 11.59 バイ オーデマピゲ」のコレクション誕生5周年という節目でもあった。失礼を承知で言うと、デビュー当時は賛否両論が巻き起こっていた。しかし、コレクションは今や非常に魅力的なものへと進化した。転機となったのは2023年、38mmモデルの導入とともに、文字盤の質感とインデックスを向上させ、コレクションの期待に応える洗練された美を実現したことだった。2024年は、ラインナップに戦略的な変更が加えられた。最も注目すべきは、クロノグラフとシンプルな3針モデルでホワイトゴールドのバリエーションが廃止されたことだ。コンプリケーションモデルには依然として使用されるが、市場ではスティールモデルとぶつかってしまうことが原因だという。今後は、ピンクゴールドがコレクション唯一のプレシャスメタルの選択肢として君臨することになる。私はこの進化に完全に納得しているが、あなたはどう思うだろうか?
ピアジェ ピアジェは近年セカンダリーマーケットで爆発的人気を集めており、特に60~80年代のストーンダイヤルは愛好家たちにとって喉から手が出るほど手に入れたい逸品となっている。伝統的なエレガンスを保ちつつ、驚くほどのコストパフォーマンスを誇るためだ。ブランド創立150周年の2024年に復刻されたのは「ピアジェ ポロ 79」。イエローゴールドのケースとポリッシュ仕上げのゴドロン装飾は見事。人間工学に基づいたデザインは賞賛に値すると思う。1980年代を象徴するウォッチが現代の技術で蘇ったかのようだ。続編は決してオリジナルを凌駕するものではないと理解していたが、これは違う。実に素晴らしい仕上がりだ。
ショパール 時計愛好家たちの間で勢いを増しているショパールだが、主な理由として、控えめなケースサイズと、ムーブメントにおいて一切手を抜かない点が挙げられる。ショパールの仕事ぶりは、常に一流だ。この「L.U.C 1860 フライングトゥールビヨン」は、36.5mmという絶妙なケースに控えめなエレガンスを体現している。傑作の系譜は、カール-フリードリッヒ・ショイフレ氏がショパール初の自社製ムーブメント、キャリバー1.96(現L.U.C 96.01-L)を誕生させた1996年に遡る。フルリエのマニュファクチュールで製造されたこのムーブメントは、初代「L.U.C 1860」に搭載され、後に発表される洗練された複雑機構の基礎を築いたのだ。「L.U.C 1860フライング トゥールビヨン」は、完璧なプロポーションのケースに手彫りのギヨシェダイヤルを備え、まさにドレスウォッチの本質を体現する。ハンターケースバックを開けると、優美なキャリバーL.U.C 96.24-Lを見ることができる。派手さではなく、洗練された存在感と卓越した技術力によって控えめな優雅さを体現した、至高のタイムピースだ。

PIAGET
ピアジェ ポロ 79ピアジェ創立150周年を記念した復刻モデル。80年代の黄金期ジェットセッターたちを魅了した、18Kイエローゴールド製のオリジナルモデルのデザインを現代の技術力を持って忠実に蘇らせつつ、中身をクオーツから超薄型自動巻きキャリバーへとアップデートさせた。自動巻き、18KYGケース、38mm。¥12,496,000 Piaget(ピアジェ コンタクトセンター Tel.0120-73-1874)

CHOPARD
L.U.C 1860 フライング トゥールビヨン8.2mmの薄型ケースに革新的フライングトゥールビヨンを備えたキャリバーL.U.C 96.24-Lを搭載。ダイヤルには手作業によるギヨシェを施した。スイスクロノメーター検定局の認定(COSC)とジュネーブ・シールの品質保証の両方を取得。世界限定10本。自動巻き、18KエシカルYGケース、36.5mm。¥20,229,000(参考価格)Chopard(ショパール ジャパン プレス Tel.03-5524-8922)
本記事は2025年3月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。
THE RAKE JAPAN EDITION issue 63