Interview: PIAGET CEO - BENJAMIN COMAR -

なぜピアジェのエレガンスは、ずっと正しいのか

April 2026

ピアジェのCEO、バンジャマン・コマー氏が語る言葉は、驚くほど実直で普遍的だ。静かなその語り口を紐解くと、技術と芸術をひとつに溶かし合わせる、メゾンの揺るぎなき“正解”が見える。
text nobuhiko takagi
photography tomoki hirokawa
grooming toyo

バンジャマン・コマー/Benjamin Comar1969年、フランス生まれ。1992年にカルティエでキャリアをスタートさせ、その後シャネルのファインジュエリー部門、レポシのCEOを歴任し、2021 年にピアジェCEOに就任。ラグジュアリー界の第一線で培った知見と、キャリア初期の日本滞在経験に基づく鋭い審美眼を持つ。「伝統とは進化させ続けるもの」という信念のもと、メゾンの新たな時代を牽引している。

 銀座の喧騒を背にブティックの静謐な空間で対峙したバンジャマン・コマー氏は、穏やかな、しかし一切の迷いを感じさせない眼差しを湛えていた。名門でキャリアを積んできた経歴から想像されるのは峻烈な戦略家としての顔だが、実際に語り始めた彼は、メゾンの伝統に対してどこまでも誠実な守護者だった。

「ピアジェの歩んできた歴史は、常にエレガンスへの挑戦でした。それは単なる装飾の美しさではなく、技術的な裏付けがあって初めて成立するものなのです」

 コマー氏の言葉は一見、抽象的だ。しかし彼が繰り返すそのキーワードを、ピアジェが歩んできた“論理”で読み解くと、そこには他ブランドとは一線を画す明確な“正解”が浮かび上がるのだ。

「薄さ」という名の美学 ピアジェを語る際に避けて通れないのが「薄さ」である。1874年、ラ・コート・オ・フェの小さな工房からムーブメントサプライヤーとして始まった出自こそ、現在のピアジェの骨格を成す。

「1957年の『9P』、そして1960年の『12P』。これらが時計業界に与えた衝撃の本質は、スペックの更新ではありませんでした。薄型ムーブメントという革新的な技術を手にしたことで、デザイナーは文字盤に天然石を用い、ブレスレットとケースを一体化させるという自由を手に入れたのです。つまり、技術は常にデザインに従属し、エレガンスを解放するために存在しているのです」

 ここに、第一の答えがある。ピアジェにとっての技術とは、誇示するための数値ではない。紳士の袖口を優雅に滑り込ませ、かつジュエリーとしての創造性を最大限に引き出すための“キャンバス”を広げる行為なのだ。この主従関係は、150年以上続く現在まで揺るがない。

ゴールドだけで時を測るという聖域 もうひとつの答えは、メゾンの徹底した「貴金属への偏愛」にある。かつては「ピアジェの時はゴールドのみによって刻まれる」と広告で謳っていたほどだ。

「70年代、世がスティール製のスポーツウォッチに沸いた時代も、ピアジェは頑なにフルゴールドの『ポロ』を貫きました。私たちが自社にゴールドの鋳造所を持ち、金属を布のように操る宝飾技術を有していたからです。ウォッチメイキングの精密さと、ジュエラーの官能性。このふたつが同じ場で、同じ哲学のもとに混ざり合う。だからこそ、ピアジェの時計には境界のない一体感が宿っているのです」

 今年発表された「ピアジェ ポロ 79」のツートーンモデルもその延長線上にある。ホワイトゴールドとイエローゴールドの対比は、単なる色分けではない。かつての「21st century」コレクションで時計とジュエリーを完璧に融合させたように、異なる貴金属を測時学上の芸術へと昇華させる試みだ。コマー氏は、この「ふたつの出自の幸福な共生」こそが、ピアジェが「ずっと正しい」理由だと自負する。

 キャリアの初期を日本で過ごしたコマー氏にとって、日本というマーケットは特別な意味を持っている。

「日本の顧客は、緻密さと美的な調和を見抜く鋭い審美眼を持っています。表面的な華やかさの裏にある『なぜこの薄さか』『なぜこの仕上げか』という本質的な問いを理解してくれる。日本で支持されることは、私たちのエレガンスが正解であることを証明するようなものです」

 インタビューを通じて感じられたのは、彼が語るエレガンスとは決してトレンドではなく、積み上げられた論理の集積であるということだ。

 なぜ、ピアジェのエレガンスは、ずっと正しいのか。その答えは、ストイックなまでの技術的探求を、官能的なまでの美意識を叶えるためだけに捧げるという、極めて誠実な優先順位にある。コマー氏という実直な導き手を得て、ピアジェは今、その正しさを確信へと変え、さらなる飛躍の未来へと歩みを進める。

Piaget Polo 79 Two -Tone
ピアジェ ポロ 79 ツートーン
ピアジェらしい復刻で話題となったモデルの新作はツートーン。ホワイトゴールドのケースとブレスレットに、イエローゴールドのゴドロン装飾が美しいコントラストを描く。厚さ 2.35mmの自社製薄型自動巻きムーブメント、キャリバー 1200P1を搭載し、格調高い輪郭と快適な装着感を実現。貴金属で時を測るというメゾンの哲学を具現化した一本だ。自動巻き、18KYG&18KWG ケース、38mm。¥15,400,000 Piaget

THE RAKE JAPAN EDITION issue 69