CINQUANTA
レザーブルゾンの聖地エンポリが生んだCINQUANTAの絶妙なエレガンス
June 2025

Fabrizio Adorni & Ferruccio Adorni
ファブリツィオ・アドルニ(左)
フェルッチオ・アドルニ(右)兄フェルッチオ・アドルニ氏は、1966年ベルガモ生まれ。85年にアドルニ社に入り、職人としての技術をひと通り学んだのち、デザインの道に。現在は新モデルの開発などに携わっている。弟のファブリツィオ氏は1970年ヴィンチ生まれ。1988年にアドルニ社に入り、12歳でサルトの世界に入った父から裁断を叩き込まれ、今も裁断と営業の実務を担当。それぞれお気に入りとして、フェルッチオ氏はムートン、ファブリツィオ氏は新素材のゴートレザーのモデルを着用。ともに厚みがあり仕立て映えする革を好む。
テーラードの世界では「仕立て映え」する生地という言葉をよく聞くが、チンクアンタのファブリツィオ・アドルニ氏によれば、レザーブルゾンの世界にも「仕立て映え」する革があるという。チンクアンタの哲学は、その仕立て映えにこだわりながら、美しい佇まいのレザーブルゾンを生み出すところにあると、氏は語る。数あるブランドの中でチンクアンタを特徴づけるには、とてもわかりやすい表現だ。
チンクアンタを手がけるアドルニ社はフィレンツェ県エンポリ市にある。革鞣し産業の聖地ピサ県サンタ・クローチェ・スッラルノからクルマで15分という便のよさも手伝い、1970年代に入って町ではレザーウェア産業が発展していった。

レザーブルゾンのファクトリーが軒を連ねるエンポリには、サルトリアの世界におけるナポリのカサルヌオーヴォがそうであるように、凄腕の職人があまた存在している。そのレベルはイタリアの中でもトップクラスだ。写真の女性職人、ロザリア氏も1986年からアドルニ社で働いており、革とともに生きてきた大ベテラン。
ブランドがスタートしたのは、1973年。創業者ステファノ・フリニャーティ氏が1950年生まれだったから、イタリア語で「50」を意味する「チンクアンタ」と名付けた。2010年、アウトワーカーとして最も信頼の置かれていたアドルニ社が、引退するフリニャーティ氏からブランドを引き継いだ。今日のブランドを支えるフェルッチオとファブリツィオのアドルニ兄弟は、実直の極みだ。人気が出てなお、会社を拡大することなくモノ作りに情熱を注ぎ続けている。適正な価格で、時代の空気も盛り込みながら、男らしく、ソフトで着心地のよい、仕立て映えのするレザーブルゾンを生み出しているのだ。
「私がオススメしたいのは、今日着ているゴートレザーやホースレザーブルゾンです。薄くすいた革がもてはやされる昨今ですが、厚みのある革は、実は服となったときにクオリティの高さを最大限に引き出してくれます。厚さが1.2mmあり、決して軽くはないですが、素材の深みやパターンがとてもきれいに出るんですよね。そしてしなやかなんです。でもね、厚み=年齢を重ねた革をそれなりの面積で使うので傷モノが多く、皆これを使いたがらない。ただ、この革はチンクアンタの魅力を最大限に引き出してくれる、そんなポテンシャルを秘めた革なんです」

革は手裁断。傷の箇所を避けて型紙を配置し、断面をささくれ立たせないよう一刀裁ちする。失敗は許されない。

左:仕立て映えする革こそが服の美しいラインと表情を生むという考えのもと、革には相当のこだわりをもつ。右:ファブリツィオ氏は、1988年から父エルミニオ・アドルニ氏のもとで裁断を叩き込まれた。革のことを誰よりもよく知るディレクターだ。